「男のきもの・織のきもの−大人の男のきもの談義

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No.52 長根英樹   2002.10.08 14:47 
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メールマガジン - No.0024 -2002.10.08 号
 1 「スロークロージング」 〜 衣を通じた温故知新
 

 ◆ ◇ ◆ 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介 ◆ ◇ ◆
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            きものダンディズム

        2002.10.08 No.0024  配信数:0330  
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 ◆ ◇ ◆ きもの村 http:// www.kimono.gr.jp/ ◆ ◇ ◆


≪≪目次≫≫

 1 「スロークロージング」 〜 衣を通じた温故知新
 2 その他

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 1 「スロークロージング」 〜 衣を通じた温故知新

 近年、イタリアを発祥とする「スローフード」運動の動きが、日本
 においても様々な形で広がってきている状況が見受けられます。
 ハンバーガーや牛丼、コンビニ食などに代表される大量生産で画一
 的な“お手軽食べもの”=「ファーストフード」と対比させた反語
 として名付けられた言葉だと思いますが、単に食物の手間の掛かり
 具合を問題とするのではなく、食べ方や作り方など広く食との関わ
 り、食の在り方をテーマとした深い思想が根本になっているものと
 捉えます。

 決して、値の張る珍品を重宝がる好事家的な嗜好を意味するのでは
 なく、折々の時季や旬に見合ったものを家庭で作り家族揃って食す
 ことを基本にしつつ、家庭で及ばない部分については効率や生産性
 だけでなく、伝統の技や手間、心などの要素も勘案し、「ファース
 ト」でもよい部分とあえて「スロー」な価値にこだわる部分のバラ
 ンスを見極めて供給者を選ぼうとする動き。
 「食」を通じて、各地域における伝統的な先人の蓄積を見つめ直し、
 温故知新で現代に受け継ぎ発展させていこうという、生活文化や哲
 学、ライフスタイルにまで広げて模索追求を行う動き。
 私は、「スローフード」ムーブメントの真髄について、上記の様に
 理解をしています。

 昨今では、「スロー」をキーワードに「スローライフ」や「スロー
 タウン」などの言葉も生まれ、種々の構想が語られてきています。

 「スローフード」の考えを発展させ、ライフスタイルやまちづくり、
 社会の仕組みにも「スロー」な価値を組み込んでいく意味において
 は、「フード」=「食」とともに日常生活の根本となる「衣食住」
 の「衣」と「住」もまた、「スロー」な観点から見つめ直していく
 ことが重要になるものと考えます。

 私は、「スローフード」の動きと連動した形で、衣服装いを通じた
 温故知新の活動、いわば「スロークロージング」(slow clothing)
 のムーブメントをナビゲートする役割を果たしていきたいと考えて
 いるところです。

               ◇

 「衣」(衣服や装い)も「食」と同様に、各国、各地域独自の文化、
 すなわち価値観や美意識、心の在り様と密接な関わりを有し、相互
 に影響を及ぼし合う形で発展蓄積されてきた経緯があります。
 そして、日本の伝統的な価値観形成の土台となり、同時に和の心を
 表現してきた装いは、まさに和の服“きもの”に他なりません。

 「衣」における「スロー」な価値を考えるとき、日本における「衣」
 (和装/洋装)の歴史、「衣」(和装/洋装)によって蓄積されて
 きた知恵の総和を比較勘案するならば、和の服“きもの”を通じて
 その模索を行うことは非常に有効であり、また不可欠になるものと
 考えます。

 日本において洋装が本格的に導入されてから百年余の歳月ですが、
 現在では和装は一部の限定的な装いとなり表面的には洋装一辺倒の
 世となりました。
 しかしながら、洋装が日本の「衣」として精神文化面も含めて昇華
 され血肉となっているかといえば、必ずしもそうとはいえない状況
 にあるものと考えます。
 それは、例えば、未だにフォーマルの装いについて確信を持ったス
 タイルを見出すことが出来ずに「服飾Q&A」などでの相談が絶え
 ない状況、また真夏にオフィスの女性がカーディガンを羽織る程に
 冷房を効かせることと引き替えにしてスーツ&ネクタイスタイルを
 成り立たせている状況、エコロジカルなアンバランスなどにもあら
 われているものと思います。

 きものを通じて「衣」と精神性の関連を見つめ直し、大切にしたい
 価値観や美意識を再認識することで、あらためて和装/洋装の枠を
 越えたこれからの日本の「衣」の在り方も見えてくるのではないか
 と考えるところです。 

               ◇

 きものを通じて実感することの出来る「スロー」な価値としては、
 まず季節の移り変わりに関する敏感さ、繊細な感受性を挙げること
 が出来ると思います。
 様々なきものの素材、織物の分類、それらのコーディネイトからは、
 微妙な季節の移ろいを感じ、それを味わい楽しんで来た様子が見て
 取れます。
 特に洋装との比較では、夏素材において多様さ、繊細さ、独自の美
 意識など独自性が際立ちます。

 こうした季節に対する繊細な感性は、自然への慈しみ、感謝につな
 がり、弱いものへの優しいまなざしにつながります。
 また、花鳥風月をかぎ分け愛でる心は、自然と一体になる中で生活
 のメリハリを味わう風流、美意識につながります。
 更に、人智をはるかに越えた自然の営みへの畏敬は、人間より大き
 なものの存在を確信させ、時に高い理想へ一身をゆだねる高度な公
 私関係(武士道精神、理想主義)の基礎になったものと思われます。


 次なる「スロー」な価値として、エコロジカルな思想を挙げること
 が出来ると思います。
 きものの仕立て、布の段階活用からは、ものを大事に愛おしむ心、
 エコロジカルな思想が見て取れます。
 隙のない直線的な裁断図には、真理の強さ、美しさが表れており、
 生地を無駄にすることなく再び一枚の布に戻して活用したり、揚げ
 や繰り回しなどによりうまく再生する工夫が見て取れます。
 布は、刺し子等の補強、継ぎなどにより大切に使われますが、布と
 しての強度が落ち、破れやすくなった最終段階でも、更に細く引き
 裂かれ、再び布糸として新しい糸と共に織り込まれる裂き織り技法
 などによって最後まで活用されます。


 また、装いと精神性の関連の強さも「スロー」な価値として挙げる
 ことが出来ると思います。
 立体裁断と曲線縫いによる構築的な洋服とは違い、直線裁断と直線
 縫いが基本で平面的な構造のきものは、ある意味服としての完成度
 が低く人が身に付けることによってはじめて衣服としての体をなす
 という面があるものと思います。
 これは逆に、装いを完成させるための着装や姿勢、精神面の比重を
 高め、きものを着る、帯を締める、袴を着けるという一連の所作を
 通じて心も含めて装いを整えていくという形で、衣服の社会的な意
 味合いを意識づけることに繋がったものと思います。

 洋装、スーツにおいては、二日酔いの朝でもネクタイさえ首に回し
 ておけばそれなりに体裁が整う(それだけ、服自体の完成度が高い)
 反面、きもの姿においては、衿を正し背筋を伸ばして精神を整えな
 ければ、どうにも様にならないという面がある様に思います。
 

 他に、コーディネイト解釈や多段階の礼装表現などの面も「スロー」
 な価値として挙げることが出来ると思います。
 きものの素材、色、柄、小物も含めた深い吟味とこだわり。また、
 それらの意味性を象徴的に捉え一つのストーリーを描く高度なコー
 ディネイト解釈。
 同じ黒紋付きでもコーディネイト、着装等で多彩に着分けるなど、
 時と場、臨席の立場に応じた多段階の礼装表現により、的確にかつ
 繊細に礼の心を表現する感性。
 これらからは、知的なしゃれ心と豊かなセンス、ダンディズムなど
 日本独自の美意識を感じることが出来ます。


 各地域に根付いた独特の染織技術や文化の蓄積についても、きもの
 を通じて見つめ直すことによってその魅力を再発見することが容易
 になり、地域毎の「衣」の多様性を広げる「スロー」な価値として
 認識をすることが出来るものと思います。

               ◇

 現在、きものの“振興”や“底辺拡大”ということで、様々な立場
 から様々な方向の動きが模索されている状況かと思います。
 ブーム便乗や現代的経営(マーケティング、プロモーション等)の
 アプローチからは、ややもすると大量生産で画一的な「ファースト
 クロージング」としてのきものが生まれてくる場合があり、危惧を
 持つところです。

 私は、「振興の質」(どの様な“振興”を目指すのかという部分)
 にこだわり、きものそのものの振興よりも、「衣」と精神文化との
 密接な繋がりを踏まえつつ和の心、日本の伝統的な価値観の振興と
 いう面において役割を果たしていきたいと考えています。
 想いや方向性を同じくする方々と連携を深めつつ、更なる模索探求
 を進めていければ幸いに存じます。


 今号は、「スロークロージング」という観点からの再整理で、過去
 の既刊号と重複する部分があります。
 各テーマについて詳しくは、以下のバックナンバーをご参考にいた
 だきたくご案内いたします。

               ◇

 【参考】
  ■ メールマガジン - No.0018号
    きものを通じて、温故知新 ― 日本の伝統的価値観を再構築
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 46_index_msg.html

  ■ メールマガジン - No.0017号
    衿元の美意識 〜 覚悟の解放
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 45_index_msg.html

  ■ メールマガジン - No.0019号
    夏袴の凛 ― 男の透け素材
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 47_index_msg.html

  ■ メールマガジン - No.0021号
    きものダンディズム
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 49_index_msg.html


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 2 その他

 こちら米沢は、山がじょじょに黄赤に色づき始め、間もなく紅葉の
 本番を迎える季節となりました。
 長く厳しい雪国の冬を控えほんのつかの間の秋ですが、実り豊かで
 錦繍の美しい時季、食に温泉にきものにと自然の恵み、ゆったりと
 した時の流れを満喫したいと思う今日この頃です。
               
 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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  メールマガジン 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介
           ― きものダンディズム ―

  発行責任者 きもの村 村長 長根 英樹 NAGANE HIDEKI   

          webmaster@kimono.gr.jp       
          http:// www.kimono.gr.jp/  

  バックナンバー http:// www.kimono.gr.jp/ home/ salon.html

  まぐまぐID:0000021262

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  :1999年10月 1日   更 :2002年10月 1日


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