「男のきもの・織のきもの−大人の男のきもの談義

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No.53 長根英樹   2003.04.10 16:14 
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メールマガジン - No.0025 -2003.04.10 号
 1 スロークロージング2 〜 スローな価値の2つの面
 

 ◆ ◇ ◆ 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介 ◆ ◇ ◆
 ┌―――――――――――――――――― スロークロージング ┐
 │                             │
 │          きものダンディズム          │
 │                             │
 └―――――――― 2003.04.10 No.0025  配信数:0300 ┘
 ◆ ◇ ◆ きもの村  http:// www.kimono.gr.jp/ ◆ ◇ ◆


≪≪目次≫≫

 1 スロークロージング2 〜 スローな価値の2つの面
 2 その他

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 1 スロークロージング2 〜 スローな価値の2つの面

 前号において、「スロークロージング」というテーマ(観点)にて
 きものの魅力の再整理、きものを通じた温故知新についてのお話し
 をしましたところ、多くの共感メールを頂戴しました。
 あらためて、“きもの心”というか、きものの精神的な面の魅力の
 奥深さ、そうした部分を大切にする“想い”の広がりを実感すると
 ともに心強く感じましたところです。

 今号においても、引き続き「スロークロージング」をテーマとして
 掘り下げていきたいと思います。

               ◇

 「スローフード」から広がり、「スローライフ」「スロータウン」
 などの形でライフスタイルや街づくりまで含めて総合的にスローな
 観点から見つめ直そうという動きに発展してきたいわゆる「スロー
 ムーブメント」。
 こうした盛り上がりの背景には、社会の現状に対する閉塞感や危機
 意識と、それを自らの足元を見つめ直すことにより解決していこう
 とする自立型の未来志向があるものと思います。
 駆け抜ける様に気忙しい時代に、一旦立ち止まり、あるいは歩みを
 ゆるめ、自らの地域や国に蓄積された固有の価値を、ゆったりじっ
 くりと「スロー」な形で見つめ直してみる。
 そうした温故知新によって、現状の課題の解決方向や明るい未来に
 向けた展望を見い出す人が多くなっているのかと思います。

 実際の「スロームーブメント」の推進においては、実生活に根ざし
 た身近な形での見つめ直しが重要になるものと思います。
 その意味で、生活の根本となる「衣食住」を、季節の移ろいや折々
 の行事風習等を通して見つめ直していくことが有効と考えます。

 ここで「スロー」な観点、特に「地域性(日本の独自性)」という
 視点から、現代の「衣食住」を見渡してみたいと思います。
 食:食の分野では、お米のご飯を日に一度口にしない人は少数派と
   思いますし、味噌汁や刺身など「和食」がまだ日常の暮らしに
   根付いている状況と思います。
 住:マンションなどでは「和室」がないところもあろうかと思いま
   すが、畳の部屋がある家が多数派でしょうし、ましてや玄関で
   靴を脱がない家、肩まで浸かれる湯船と洗い場のない風呂など
   は極わずかで、和の住まいが未だ根付いている状況と思います。
 衣:ゆかたや甚平、作務衣などは身に付けたことがあっても、いわ
   ゆる「きもの」を身に付けたことがほとんどない。あるいは、
   きものを着るとしても数年に一度。
   男性の場合、きものを1枚も持っていない人が多く、袴を着け
   たことのない人が大半。
   上記の様に、一般的には生活に根ざした形で「和服」が用いら
   れているという状況にはない様に思います。

 この様にしてみると、ことさら「衣食住」の「衣」の分野において、
 地域性や伝承が薄れる一方で画一化が進んでいる“ファースト”な
 現状の危うさが際立って感じられることと思います。

 「衣食住」の生活文化全般に言えることではありますが、特に「衣」
 の分野、衣服/装いは“心、精神面”との関わりが深く、その日の
 気分や体調、お腹の空き具合によって焼き肉、中華、あっさり和食
 など、原始的な欲求によるところも大きい「食」と違って、その日
 の気分や体調で色使いや寒暖の調整等を工夫することがあっても、
 スーツを着るか否か、ネクタイをするか否かを原始的欲求に従って
 判断する事はほとんどないものと思います。

 この様に、「衣」は“心、精神面”“社会性”という要素との関連
 が強く、各国、各地域独自の文化、価値観や美意識、心の在り様を
 表現すると共に、それらを育むという形で相乗的に発展蓄積されて
 きた経緯があります。
 「衣」が画一的になること、独自性や伝承が薄れていくことは、地
 域固有の文化、精神性や社会との関わり方が薄れ、装いが表層的で
 深みのないものになっていくことに繋がるものと思います。

 特に現在は、国内のみならず、国際的にも大きな転換の時期にあり、
 新たな価値観、新たな秩序、新たな調和の在り方が求められている
 時代だと思います。
 そうした中、日本らしさ、日本の心、価値観や哲学など、自分自身
 で納得の出来る自分らしいスタイルを見出すヒントを、「スロー」
 な見つめ直しによって探っていくことが可能であり、また重要にな
 るものと考えます。
 「衣」(和の服:きもの)を温故知新で見つめ直す「スロークロー
 ジング」、総合的な「スローライフ」の探求は、そうした可能性を
 もつものと思います。

               ◇

 「スロー」が時代のキイワードとなり、トレンドやブーム的な形で
 の広まりも見られる現状にあって、「スロームーブメント」も様々
 な思惑のもとに解釈や展開がなされ、中には、「スローフード」と
 いう名前の好事家的な“グルメ、グルマン”趣味であったり、また
 「スロー」を宣伝コピーとしてイメージ戦略に利用する企業活動で
 あったり…など、そろそろ「スロー」の中味、本質的な意味合いが
 問われる段階になってきた様に思います。

 「スロームーブメント」は、全ての面において昔の時代に立ち返ろ
 うといった動きではなく、あまりに気忙しく急ぎ足で、効率優先、
 物質的な豊かさ優先に偏りがちだった社会や生活から、その歩みを
 ゆるめたり、立ち止まって振り返ったりする中で、ゆったりじっく
 りと「スロー」な形で生活や価値観を見つめ直そうとする動きで、
 「スロー」に大切にしたい部分と「ファースト」でよい部分を見極
 め、時や状況に応じてそのバランスをうまくはかっていこうとする
 しなやかな発想が根幹にあるものと思います。

 その意味で、「スロー」な部分と「ファースト」な部分を見極める
 基準こそが重要で、大切にしたい「スロー」な価値を明らかにする
 ことが「スロームーブメント」のバランスを保ち、ブームに流され
 ない本質的な探求の方向を示すことに繋がるものと考えます。

 私は、「スロー」な価値を、「地域に根ざしたローカルな価値」と
 地域や時代を越える「普遍的なグローバルな価値」の2つの面から
 捉えています。

 ◆地域に根ざしたローカルな価値
  地域固有の蓄積や文化を見つめ直すことを通じて、地域の独自性
  や多様性、画一的でないことの重要性、及び素晴らしさを再認識
  することが出来る。
  こうした価値観が基盤となり、「地産地消」や「一村一品」的な
  名物化/地域ブランド化が進み、各地域の特性に応じた独自の産
  業や文化の模索、発展が盛んになっていく。
  これは、画一的/汎用的製品市場における中国やアジア諸国等と
  の激しい国際競争の時代にあって、国、地域としての新たな産業
  /文化再生の方向性としても適う面あり。

 ◆時代や地域を越えた普遍性をもつグローバルな価値
  自然との親和性の強さ、エコロジカルな面。
  人と人との繋がり、家族の繋がり、地域/世代の繋がり、伝承の
  大切さ。
  こうした価値観に基づいて、地域個々人の繋がりや連携を密にす
  ることによって、自助・互助・公助のバランスを最適化させるコ
  ミュニティ本来の自律調整機能を再活性化し、地域の地力を活か
  した創造力の向上、街興しを図ることが可能に。
  また、「他者を思う心」「幸せの分割は出来ない(他者が不幸な
  ままで、いつまでも自分だけが幸福でいることは出来ない)」と
  いった精神が基調となる高度な理想主義(超調和主義)により、
  長年に渡る国際紛争の解決や、新たなより普遍的な国際協調の枠
  組みを模索していく動きにも繋がる可能性あり。

               ◇

 きものを上記2面の価値に照らしてみると、
 ・各地域に根ざした染織、仕立て、着用方法の独自性や多様性
 ・季節を繊細に感じ装い分ける自然との強い関わり、一体感
 ・直線裁断で生地を無駄にせずリサイクルを前提とした仕立て
  面でのエコロジカル発想
 などなど、あらためてその「スロー」な価値、蓄積の奥深さに感動
 するとともに、誇らしく思い、先人への感謝の念を強くするところ
 です。

 また更に、こうした価値に照らしてみるならば、従来はネガティブ
 な形で捉えられていたきものの特徴、(一般的に)敬遠される要素
 (と言われるもの)でさえも、別な観点から価値あるものと見直し
 評価することが出来得るものと思います。
 例えば、「しきたり」や「高価格」という要素でさえも。

               *

 ◆きものにおける「スロー」な価値
  ― 世代伝承、人と人の繋がり、社会との繋がり ― という側面

  きものには、製造面での技術伝承だけでなく、着装や買い揃えと
  いう面でも伝承や繋がりを大切にしてきた歴史があります。
  きものが敬遠される要素として一般的に言われる「しきたり」や
  「高価格」といった面さえも、伝承や繋がりをもたらす「スロー」
  な価値として意味合いを考えることが出来るものと思います。

  衣服装いには、本人が意識するか否かに関わらず、また和装か洋
  装かに関わらず、当人の心を伝えるメッセージ性があります。
  それが故に、時と場、立場等によって的確なメッセージを伝える
  意味で、装いの規範(ドレスコード)が形づくられていったもの
  と考えます。
  現在では、「しきたり」を、装いを制限する窮屈な枠として見る
  捉え方もある様ですが、私は、装いによって自分らしいメッセー
  ジを伝えるための繊細な配慮やしゃれ心など先人の蓄積が詰まっ
  た貴重な資産として捉えています。
  時代によって装いも移り変わりますが、「しきたり」を知ること
  によって従来の蓄積を踏まえた新たな装い、自分らしい解釈も生
  まれてくるものと思います。
  こうした「しきたり」を知る上では、親や祖父母など家族親族間
  での世代伝承、地域の詳しい人に尋ねるなどの地域伝承といった
  形で人と人の繋がりが大切になってきます。
  今、いわゆる海外の「ブランド」品を身に付けてお呼ばれに向か
  おうとする娘さんが、おばあちゃんに装いについてのアドバイス
  を得ようとする場面がどのくらいあるでしょうか。
  しかし、きもので装う場合は、おばあちゃんにアドバイスを求め、
  「しきたり」を通じて様々な心の機微やその表現の仕方などを学
  ぶ場面が多くあることと思います。
  こうした意味で、きものは(日本において)世代間の伝承を大切
  にして、促進する仕組みを持った衣服/装いであると言えるもの
  と思います。
  (本来、「衣」には上記の意味合いがあり、各国各地域それぞれ
   に伝承、繋がりを大切にしてきたものと思います。)

  また、「高価格」という面でも、高価なものを揃えていくために、
  一代だけでなく何代にも渡って揃えそれを受け継いでいったり、
  揃える過程での親の苦労等を見、知ることで想い入れを深めたり
  と、伝承や繋がりを深めてきた要素を見ることが出来ます。
  現在同様、かつて日常的にきものが着られていた時代でも、折々
  のあらたまった場面で装うきものは高価なものでした。
  しかし、各家庭の経済力に応じた形で衣装を揃え、各場面にふさ
  わしい形で装いを整えるという常識、価値観が敷延していたもの
  と思います。
  こうした点からは、現在では「個人の自由」との対比ですっかり
  薄れてきた価値観としての「公共心」(パブリックセンス)やコ
  ミュニティの一員としての「社会性」に対する鋭い感覚を見い出
  すことが出来る様に思います。
  「毎日使うものだから…」ということで、車には安全や快適性を
  求める以上の大きなお金を配分しつつ、非日常のことながら必ず
  あると分かり切っている折々の行事のための装いには間に合わせ
  程度のわずかなお金だけしか配分せずに、日々の個人生活、プラ
  イベートをエンジョイする。
  こうした現状に「いびつさ」を感じる視点、きものにはそうした
  ものを気付かせてくれる大きな価値がある様に思います。

               ◇

 きものを通じた温故知新、「スロークロージング」を進めることに
 よって、地域の独自性や多様性の素晴らしさに加え、国としての独
 自性、日本の文化、和の伝統的な価値観の中に存する自然との調和、
 繊細な感受性、繋がりを大切にする慈しみややさしさ、凛とした気
 概などの素晴らしい宝、普遍の真理を見い出すことが出来るものと
 思います。

 きものの振興に対する考え方、ビジネスとしての取り組みにも様々
 な方向があり得るものと思いますが、従来からの伝統や蓄積を持つ
 地域呉服店、メーカー等の役割は、「ファーストクロージング」と
 してのきもの着用の流れやブームに与することなく、真っ正面から
 きものの価値を捉えつつ、「スロークロージング」のナビゲーター
 として、地域の総合学習や生涯学習に参画し、産業と文化の相関/
 融合を重視し促進する中で、地域らしい街興し、地域再生において
 役割を果たしていくことにあるものと考えます。
 「スローフード」「スローハウジング」の動きとも連携して、地域
 における「スロームーブメント」を推進していく過程で、心からの
 きものに対する理解、自然にきものが馴染む環境も着実に広まって
 いくものと考えます。

 こうした動きをご一緒に進めていければ幸いに存じます。


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 2 その他

 こちら米沢は、桜にはまだ早いものの山の雪も随分と消え、春本番
 の息吹、うきうきする感覚を満喫する頃となりました。

 きものを通じた温故知新、「スロークロージング」は、単に衣服/
 装いをテーマとするだけでなく、心や精神面、地域社会の再生にも
 繋がる面をもつ様に思います。
 (「スローライフ」「スロータウン」等の「スロームーブメント」
  も含めて。)

 地元米沢・置賜地域における「スロークロージング」の展開、地域
 コミュニティの再生について、本年元日号の地元新聞「米沢日報」
 に提言が掲載されました。
 地域や社会との関わりできものの魅力を見つめ直す際の参考として
 ご覧いただければ幸いです。

 「スロークロージング Slow clothing
  米沢織・きものを通じた温故知新による地域コミュニティの再生」
  http:// nagane.kimono.gr.jp/ hideki/ messages/ 22_title_msg.html

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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  発行責任者 きもの村 村長 長根 英樹 NAGANE HIDEKI   

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  :1999年10月 1日   更 :2002年10月 1日


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