(【大人の男のきもの談義】No.6より)
野袴(のばかま)スタイルのご提案。
裾をスリムにしたズボン風の活動性の高いスタイルの袴です。
男のきものの「着流し」スタイルは、気軽な寛(くつろ)ぎの装い、
オフの場面で個としての開放感を感じられる装いです。
もともと「着流し」という言葉は、袴着用と対比して使われる言葉。
現在では「広辞苑」でも「袴や羽織を着けない男性の略装」とあり
ますが、これは狭義の捉えで「紋付き羽織を着けていても袴着用で
なければ着流し」という袴着用の有無で分けるのが本義と捉えます。
洋装ではドレスコード(装い基準)として「ホワイトタイ(燕尾服
着用)」「ブラックタイ(タキシード着用)」等ありますが、もし
日本で「着流し不可」との会合があったとして、「長着だけでなく
羽織を着ければOKだろう」とのことで袴無しで出席するとすれば、
紋付きの羽織を着用していたとしても主催側、他の列席者と大きな
ギャップが生じることと思います。
もっとも現在では、きものを着用するだけであらたまった気持ちの
表現と受け入れられ、「着流し不可」「袴着用」というのは、稽古
事等特別な場面以外ではほとんど明示がない基準になると思います。
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袴着用か着流しかのポイントは、股を塞ぐ「ソーシャル/オン・ビ
ジネス」の場面か、股下リラックスした「オフ/寛ぎ/自由人」の
場面かという区分けになるでしょう。
袴と社会性の例をいくつかご紹介。
書生の羽織を付けない袴スタイル。
「晴れ」「ケ」の区分けとは別の観点からの装いです。
東京湯島の講堂は、リベラルな気風が特徴で、武士の子息以外にも
農民の出でも聴講を許されていたとのこと。
しかしながらその様にリベラルな講堂であっても聴講の条件として
「袴着用」が求められたとのこと。
昔、学生は将来を背負って立つ存在という意味で、自らの意気込み
と共に社会からの尊重があったと思います。
また、宮中における女性の装い、十二単も「緋袴(ひはかま)」が
穿かれたスタイルとなっています。
「馬乗り袴(うまのりはかま)」と「行灯袴(あんどんはかま)」。
股の割れた「馬乗り袴」が本来で、スカート状の「行灯袴」が簡易
型といわれるのも同じ意味合いでしょう。
以上の例からも、股を塞ぐ社会性を帯びた装いとしての「袴着用」
の意味合いが確認出来ることと思います。
ズボンの前開きを「社会の窓」とは、今あらためて考えると含蓄の
深い言葉と思いますが、「窓」があると言うことは、「壁」がある
と言うこと。
プライベートな股部分を隠す「壁」、すなわち袴やズボンがあって
初めて社会性を帯びた装いになるという意味で、きものにおける袴
スタイルの意味合いを再認識する興味深い語彙と思います。
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私は、男のきもの姿において「袴スタイル」には格別の想い入れ、
こだわりがあります。
これは、なるべく多くの場面でそれぞれの場面に見合ったきものを
着用したい、また着用してもらいたいとの気持ちがあり、礼装時は
もちろんですが、寛ぎ場面の着流しスタイルとは別に、男の外出着
(ソーシャル/オン・ビジネス)としてのシーン、凛とした着姿を
大事にしたいと思うからであり、この場合、「袴」は不可欠のもの
となります。
とは言っても、礼装以外の場面で「馬乗り袴」「行灯袴」等、裾の
広がった通常の袴を着用するのは、混んだ電車や階段の移動など、
活動性の面で難しい部分もあります。
また、履物の問題。
下駄や草履では、花緒による足先3点固定となり踵(かかと)部分
のホールド感に欠けますし、雨雪が不安でやはり活動性の面で洋装
と比べハンデとなります。
実際に、「下駄や草履に抵抗があり、きもの着用をためらう」との
話しも聞くところです。
以上のことから、社会性を帯びた外出着の意味合いを残しつつ、裾
の部分をスリムにして活動性を高め、靴に合わせても違和感のない
ズボン風の「野袴」の研究、リファインを進めているところです。
活動性を高めた袴は、「野袴」「道中袴」「庄屋袴」など、昔から
様々なタイプがあります。
お馴染みなのは、「水戸黄門」の装いです。
金茶色と紫色の強烈な色合わせと、少し丈が短めのデザインから、
洗練されたお洒落な装いとしてのイメージはないかも知れませんが、
ズボン風袴の原型といえると思います。
今回ご提案する「野袴」は、前チャックや両脇ポケット等洋装応用
のディティールの他、各寸法、全体のシルエット等のリファインを
加えた「きもの村オリジナル」の仕立てとなります。
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野袴デザインは、活動着としてだけでなく、時代環境にマッチした
「21世紀デザイン」として、フォーマルの場面でも状況に応じて
お召しいただきたいと考えています。
例えば、来年は沖縄でサミットがありますが、首相には絽の紋付き
お対に、同じく絽の縞平袴地の野袴スタイルで、全世界に和の装い、
男の透け素材の上品な色気を紹介してもらいたいところです。
以上、寛ぎの着流しスタイルに加え、ソーシャル/オン・ビジネス
の装いとして、凛とした雰囲気を残しつつ活動的な「野袴スタイル」
にてきものをお召しいただきたくご提案申し上げます。
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