「男のきもの・織のきもの−大人の男のきもの談義

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[3] 長根英樹 羽裏の贅 ―織絵羽羽裏 返事を書く
    1999.11.12 11:38

上図 参考品  織絵羽羽裏「白鷺城」

 
 
男の羽裏。
表のきもの地と共に、あるいはそれ以上にこだわりを持ち、
隠れたお洒落を楽しんでいる方もいらっしゃることと思います。

現在、市場ではほとんど見る機会がないと思いますが、
織りにより精緻な絵羽柄を表した幅広の絵羽羽裏(:額裏)が
ありますのでご紹介いたします。

男のきものの贅が華やかなりし昭和の時代に起こされた意匠図面、
数万枚に及ぶ紋紙(パンチカード)により、手織ジャカードで
織り上げられる逸品です。


実物を見ると本物の迫力、技の蓄積、職人の気合いが伝わって
来ます。

理屈抜きで一枚は持ちたい羽裏。
羽裏に合わせるために表地を吟味したい、そんな羽裏です。
 
 
下図 参考品  織絵羽羽裏「金閣寺」

 
[2] 長根英樹 オン・ビジネスの装いとしての袴スタイル 返事を書く
    1999.10.01 00:00

 きものを装いのシチュエーションに分けて捉えるとき、
 「晴れ(礼装)」と「ケ(日常着、普段着)」との2大分類で
 語られることが多い様に思います。

 またこれが、“普段着以外はかしこまった礼装”とのことで
 逆に装いの幅を狭くしている様にも感じます。

 通常の服装、すなわち大半の人が洋装と思いますがこれで
 考えると、そもそも「晴れ」の機会は特別でそう多くありません
 ので、普段は「礼装」か「日常着」かという分類ではなく、
 仕事着か否かという別の大きな分類を意識して装いを決めている
 ことと思います。

 すなわち、仕事着あるいは“社会との関わりを踏まえた服装”
 (=スーツや学生服など)としての「オン・ビジネス、
 ソーシャルな装い」が存在し、一方の休日、仲間内などの
 「プライベートの装い」と自然に着分けができていることと
 思います。
 (もっとも、この区別が曖昧になる傾向は見られますが。)


 さて、きものも昔は各人四六時中着られていた衣服ですので、
 様々なシチュエイションに応じた装いがあり、「晴れ」と「ケ」
 以外にも、礼装ではないが社会との関わりを意識し身を正す
 装いとしての「オン・ビジネス」のスタイルがありました。

 男のきものにおいて、それは「袴スタイル」であったと捉えます。

 もともと「着流し」という言葉は、袴着用と対比して使われる
 言葉。
 現在では「広辞苑」でも「袴や羽織を着けない男性の略装」と
 ありますが、これは狭義の捉えで「紋付き羽織を着けていても
 袴着用でなければ着流し」という袴着用の有無で分けるのが
 本義と捉えます。

 洋装ではドレスコード(装い基準)として「ホワイトタイ」
 「ブラックタイ」等ありますが、もし日本で「着流し不可」
 との会合があったとして、「長着だけでなく羽織を着ければ
 OKだろう」とのことで袴無しで出席するとすれば、大きな
 ギャップが生じることと思います。


 昔、学生は将来を背負って立つ存在という意味で、自らの
 意気込みと共に社会からの尊重があったと思います。
 東京湯島の講堂は、リベラルな気風が特徴で、武士の子息以外
 に農民の出でも聴講を許されていたとのこと。
 しかしながらその様にリベラルな講堂でも聴講の条件として
 「袴着用」が求められたとのこと。

 学生は羽織を着けることはありませんが、羽織無しでも
 袴を着ければ「オン・ビジネス」。
 社会性を意識した装いとしての鍵は袴着用の如何にあったことの
 証左と思います。

 もっとも、「士農工商」の世。
 商人は仕事中「オン・ビジネス」でも袴無し。
 袴着用は庄屋など限られた人のみ許された装いとなると、
 「オン・ビジネス」というのは単に“仕事中”か否かという
 区別ではなく、社会性を意識した装いであるか否の要素も
 含めた「ビジネス」意識がポイントの概念と言えると思います。


 もともと、袴は「褌(はかま)」と書き、「穿き裳(はきも)」
 の転化で、ズボンを太くしたような「特鼻褌(とくびこん、
 たふさぎ)」から発達したものとのこと。
 (「南部家伝来衣装図録」 盛岡市中央公民館刊
  「日本服飾史」     和田辰雄      参照)

 「たふさぎ」は「股塞ぎ(またふさぎ)」の義。

 今はほとんど使われない言葉でしょうが、ズボンの前開きを
 「社会の窓」と言ったのは、今考えると含蓄深い言葉と思います。
 「窓」があると言うことは、「壁」があると言うこと。
 プライベートな股を隠す「壁」=袴、ズボンがあって初めて
 社会性を帯びた装いになるという意味で、袴スタイルの意味合い
 を再認識する語義、資料です。

 この股塞ぎ、社会性の装いとしての袴は、男性のみならず、
 宮中における女性の装いでも共通で、十二単も「緋袴
 (ひはかま)」が穿かれたスタイルとなっています。

 「着流し」の本当の魅力、開放感は、股を塞ぎ気持ちを凛と
 引き締める袴着用の経験があってこそ、その袴を外したときに
 得られる自由さの魅力と思います。

 また逆に、着流しの開放感との対比で、袴着用の気持ちの張り、
 心地よい緊張感、背筋の伸びる和装、日本男子の心も実感できる
 ことと思います。


 さて、振り返って現代の装い。
 「きものは、家で寛(くつろ)ぐ分には良いけど、仕事では
  なかなか着づらい。何か頼りない気がして。」
 とのお話も聞きます。

 この際のきもの姿が、袴のない着流しを前提としての話しに
 なっている点が、ポイントと思います。
 
 礼装の紋付き袴姿以外は、着流しのみとの固定観念だと、礼装
 でなく社会性を帯びた股塞ぎの装いとしてきもの姿を想像する
 ことは難しいでしょう。
 
 ここで、礼装ではない袴スタイルを現代に見直したい装いとして
 提案したいと思います。
 
 オン・ビジネスといっても仕事でネクタイを外し袴姿で
 装うことは難しいかも知れませんが、目上との会合や、
 仲人さん宅への挨拶など、礼装でなくてもプライベートな
 オフの装いではなく、社会性を帯びた装いの場面は多い
 ことと思います。
 (もちろん、まさにビジネスの場面でも、装いが緩やかな
  金曜日や、サミットの際の首相の装いとしてダークな
  御召のお対に袴スタイルは、チャレンジして欲しい装いと
  思います。)


 一般に、袴スタイルというと裾広がりの三角スタイル
 (馬乗り袴:下左)を思い浮かべることと思います。
 これでは、紋無しの礼装以外の装いといっても活動性に欠け、
 日常の社会性場面での装いが難しくなるかも知れません。


  


左:馬乗袴       右:野袴



 しかし昔、忠臣蔵「殿中でござる」の装いでは裾を引きづった
 長袴だったものが、後に「切り袴」として短くなり礼装と
 なった様に、スタイルは時代の環境とともに変化していくもの。
 
 現代の階段の多い道路、電車/車移動、洋建築等を考慮すると、
 上右の裾をスリムにした「野袴(のばかま)」スタイルは、
 活動的でありつつ風格を保ち、気持ちをあらたにする礼に適った
 装いとして自信を持って着用できるものとお薦めするところです。

 ご紹介の袴は、礼装用の光沢のある縞袴ですが、無地の袴や
 細かい織柄の袴ならば礼装以外にも着用機会が広がります。

 また、ご紹介の「野袴」以外にも活動性を高めた袴は様々な
 タイプがありますし、オリジナルの創作(リファイン)を
 加えても面白いところ。

 是非、袴スタイルで「晴れ」でも「ケ」でもない、「オン・
 ビジネス:社会性を帯びた場面」をきもので装っていただきたく
 ご提案いたします。

 
[1] 長根英樹 大人の男のきものの魅力を語る場として 返事を書く
    1999.10.01 00:00

 このコーナーは、洋装/和装のファッション(装い)に限らず、
 生活、価値判断、人生に対して自分のスタイル(流儀)を
 持った大人の男のきものをテーマに、その魅力、装いの楽しみ、
 きもの心について語り合う落ち着いた雰囲気のサロン(談話室)
 です。

 形(デザイン、シルエット)だけではないきものの魅力。
 素材(織り、テキスタイル)の面、心(繊細な感受性、洒落心、
 凛とした気構えなど)の面を含めたきものの素晴らしさ、
 奥深さ、それを踏まえた自己表現としての装いについて、
 老若男女を問わず前向きな姿勢で語り合いたいと思います。

 少々口幅ったい運営規定となっておりますが、きものといかに
 親しむか、自ら楽しみを広げていくかという未来志向の話しを
 したいとの気持ちですので、想いを汲んでいただきたく。

 想いを同じくする皆さんと交流を深めていきたいと思っています。
 

                  きもの村 村長 長根英樹
 



上杉神社 上杉鷹山公

 

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  :1999年10月 1日   更 :2002年10月 1日
                          


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