「男のきもの・織のきもの−大人の男のきもの談義

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[53] 長根英樹 メールマガジン - No.0025 -2003.04.10 号
 1 スロークロージング2 〜 スローな価値の2つの面
返事を書く
    2003.04.10 16:14

 ◆ ◇ ◆ 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介 ◆ ◇ ◆
 ┌―――――――――――――――――― スロークロージング ┐
 │                             │
 │          きものダンディズム          │
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 └―――――――― 2003.04.10 No.0025  配信数:0300 ┘
 ◆ ◇ ◆ きもの村  http:// www.kimono.gr.jp/ ◆ ◇ ◆


≪≪目次≫≫

 1 スロークロージング2 〜 スローな価値の2つの面
 2 その他

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 1 スロークロージング2 〜 スローな価値の2つの面

 前号において、「スロークロージング」というテーマ(観点)にて
 きものの魅力の再整理、きものを通じた温故知新についてのお話し
 をしましたところ、多くの共感メールを頂戴しました。
 あらためて、“きもの心”というか、きものの精神的な面の魅力の
 奥深さ、そうした部分を大切にする“想い”の広がりを実感すると
 ともに心強く感じましたところです。

 今号においても、引き続き「スロークロージング」をテーマとして
 掘り下げていきたいと思います。

               ◇

 「スローフード」から広がり、「スローライフ」「スロータウン」
 などの形でライフスタイルや街づくりまで含めて総合的にスローな
 観点から見つめ直そうという動きに発展してきたいわゆる「スロー
 ムーブメント」。
 こうした盛り上がりの背景には、社会の現状に対する閉塞感や危機
 意識と、それを自らの足元を見つめ直すことにより解決していこう
 とする自立型の未来志向があるものと思います。
 駆け抜ける様に気忙しい時代に、一旦立ち止まり、あるいは歩みを
 ゆるめ、自らの地域や国に蓄積された固有の価値を、ゆったりじっ
 くりと「スロー」な形で見つめ直してみる。
 そうした温故知新によって、現状の課題の解決方向や明るい未来に
 向けた展望を見い出す人が多くなっているのかと思います。

 実際の「スロームーブメント」の推進においては、実生活に根ざし
 た身近な形での見つめ直しが重要になるものと思います。
 その意味で、生活の根本となる「衣食住」を、季節の移ろいや折々
 の行事風習等を通して見つめ直していくことが有効と考えます。

 ここで「スロー」な観点、特に「地域性(日本の独自性)」という
 視点から、現代の「衣食住」を見渡してみたいと思います。
 食:食の分野では、お米のご飯を日に一度口にしない人は少数派と
   思いますし、味噌汁や刺身など「和食」がまだ日常の暮らしに
   根付いている状況と思います。
 住:マンションなどでは「和室」がないところもあろうかと思いま
   すが、畳の部屋がある家が多数派でしょうし、ましてや玄関で
   靴を脱がない家、肩まで浸かれる湯船と洗い場のない風呂など
   は極わずかで、和の住まいが未だ根付いている状況と思います。
 衣:ゆかたや甚平、作務衣などは身に付けたことがあっても、いわ
   ゆる「きもの」を身に付けたことがほとんどない。あるいは、
   きものを着るとしても数年に一度。
   男性の場合、きものを1枚も持っていない人が多く、袴を着け
   たことのない人が大半。
   上記の様に、一般的には生活に根ざした形で「和服」が用いら
   れているという状況にはない様に思います。

 この様にしてみると、ことさら「衣食住」の「衣」の分野において、
 地域性や伝承が薄れる一方で画一化が進んでいる“ファースト”な
 現状の危うさが際立って感じられることと思います。

 「衣食住」の生活文化全般に言えることではありますが、特に「衣」
 の分野、衣服/装いは“心、精神面”との関わりが深く、その日の
 気分や体調、お腹の空き具合によって焼き肉、中華、あっさり和食
 など、原始的な欲求によるところも大きい「食」と違って、その日
 の気分や体調で色使いや寒暖の調整等を工夫することがあっても、
 スーツを着るか否か、ネクタイをするか否かを原始的欲求に従って
 判断する事はほとんどないものと思います。

 この様に、「衣」は“心、精神面”“社会性”という要素との関連
 が強く、各国、各地域独自の文化、価値観や美意識、心の在り様を
 表現すると共に、それらを育むという形で相乗的に発展蓄積されて
 きた経緯があります。
 「衣」が画一的になること、独自性や伝承が薄れていくことは、地
 域固有の文化、精神性や社会との関わり方が薄れ、装いが表層的で
 深みのないものになっていくことに繋がるものと思います。

 特に現在は、国内のみならず、国際的にも大きな転換の時期にあり、
 新たな価値観、新たな秩序、新たな調和の在り方が求められている
 時代だと思います。
 そうした中、日本らしさ、日本の心、価値観や哲学など、自分自身
 で納得の出来る自分らしいスタイルを見出すヒントを、「スロー」
 な見つめ直しによって探っていくことが可能であり、また重要にな
 るものと考えます。
 「衣」(和の服:きもの)を温故知新で見つめ直す「スロークロー
 ジング」、総合的な「スローライフ」の探求は、そうした可能性を
 もつものと思います。

               ◇

 「スロー」が時代のキイワードとなり、トレンドやブーム的な形で
 の広まりも見られる現状にあって、「スロームーブメント」も様々
 な思惑のもとに解釈や展開がなされ、中には、「スローフード」と
 いう名前の好事家的な“グルメ、グルマン”趣味であったり、また
 「スロー」を宣伝コピーとしてイメージ戦略に利用する企業活動で
 あったり…など、そろそろ「スロー」の中味、本質的な意味合いが
 問われる段階になってきた様に思います。

 「スロームーブメント」は、全ての面において昔の時代に立ち返ろ
 うといった動きではなく、あまりに気忙しく急ぎ足で、効率優先、
 物質的な豊かさ優先に偏りがちだった社会や生活から、その歩みを
 ゆるめたり、立ち止まって振り返ったりする中で、ゆったりじっく
 りと「スロー」な形で生活や価値観を見つめ直そうとする動きで、
 「スロー」に大切にしたい部分と「ファースト」でよい部分を見極
 め、時や状況に応じてそのバランスをうまくはかっていこうとする
 しなやかな発想が根幹にあるものと思います。

 その意味で、「スロー」な部分と「ファースト」な部分を見極める
 基準こそが重要で、大切にしたい「スロー」な価値を明らかにする
 ことが「スロームーブメント」のバランスを保ち、ブームに流され
 ない本質的な探求の方向を示すことに繋がるものと考えます。

 私は、「スロー」な価値を、「地域に根ざしたローカルな価値」と
 地域や時代を越える「普遍的なグローバルな価値」の2つの面から
 捉えています。

 ◆地域に根ざしたローカルな価値
  地域固有の蓄積や文化を見つめ直すことを通じて、地域の独自性
  や多様性、画一的でないことの重要性、及び素晴らしさを再認識
  することが出来る。
  こうした価値観が基盤となり、「地産地消」や「一村一品」的な
  名物化/地域ブランド化が進み、各地域の特性に応じた独自の産
  業や文化の模索、発展が盛んになっていく。
  これは、画一的/汎用的製品市場における中国やアジア諸国等と
  の激しい国際競争の時代にあって、国、地域としての新たな産業
  /文化再生の方向性としても適う面あり。

 ◆時代や地域を越えた普遍性をもつグローバルな価値
  自然との親和性の強さ、エコロジカルな面。
  人と人との繋がり、家族の繋がり、地域/世代の繋がり、伝承の
  大切さ。
  こうした価値観に基づいて、地域個々人の繋がりや連携を密にす
  ることによって、自助・互助・公助のバランスを最適化させるコ
  ミュニティ本来の自律調整機能を再活性化し、地域の地力を活か
  した創造力の向上、街興しを図ることが可能に。
  また、「他者を思う心」「幸せの分割は出来ない(他者が不幸な
  ままで、いつまでも自分だけが幸福でいることは出来ない)」と
  いった精神が基調となる高度な理想主義(超調和主義)により、
  長年に渡る国際紛争の解決や、新たなより普遍的な国際協調の枠
  組みを模索していく動きにも繋がる可能性あり。

               ◇

 きものを上記2面の価値に照らしてみると、
 ・各地域に根ざした染織、仕立て、着用方法の独自性や多様性
 ・季節を繊細に感じ装い分ける自然との強い関わり、一体感
 ・直線裁断で生地を無駄にせずリサイクルを前提とした仕立て
  面でのエコロジカル発想
 などなど、あらためてその「スロー」な価値、蓄積の奥深さに感動
 するとともに、誇らしく思い、先人への感謝の念を強くするところ
 です。

 また更に、こうした価値に照らしてみるならば、従来はネガティブ
 な形で捉えられていたきものの特徴、(一般的に)敬遠される要素
 (と言われるもの)でさえも、別な観点から価値あるものと見直し
 評価することが出来得るものと思います。
 例えば、「しきたり」や「高価格」という要素でさえも。

               *

 ◆きものにおける「スロー」な価値
  ― 世代伝承、人と人の繋がり、社会との繋がり ― という側面

  きものには、製造面での技術伝承だけでなく、着装や買い揃えと
  いう面でも伝承や繋がりを大切にしてきた歴史があります。
  きものが敬遠される要素として一般的に言われる「しきたり」や
  「高価格」といった面さえも、伝承や繋がりをもたらす「スロー」
  な価値として意味合いを考えることが出来るものと思います。

  衣服装いには、本人が意識するか否かに関わらず、また和装か洋
  装かに関わらず、当人の心を伝えるメッセージ性があります。
  それが故に、時と場、立場等によって的確なメッセージを伝える
  意味で、装いの規範(ドレスコード)が形づくられていったもの
  と考えます。
  現在では、「しきたり」を、装いを制限する窮屈な枠として見る
  捉え方もある様ですが、私は、装いによって自分らしいメッセー
  ジを伝えるための繊細な配慮やしゃれ心など先人の蓄積が詰まっ
  た貴重な資産として捉えています。
  時代によって装いも移り変わりますが、「しきたり」を知ること
  によって従来の蓄積を踏まえた新たな装い、自分らしい解釈も生
  まれてくるものと思います。
  こうした「しきたり」を知る上では、親や祖父母など家族親族間
  での世代伝承、地域の詳しい人に尋ねるなどの地域伝承といった
  形で人と人の繋がりが大切になってきます。
  今、いわゆる海外の「ブランド」品を身に付けてお呼ばれに向か
  おうとする娘さんが、おばあちゃんに装いについてのアドバイス
  を得ようとする場面がどのくらいあるでしょうか。
  しかし、きもので装う場合は、おばあちゃんにアドバイスを求め、
  「しきたり」を通じて様々な心の機微やその表現の仕方などを学
  ぶ場面が多くあることと思います。
  こうした意味で、きものは(日本において)世代間の伝承を大切
  にして、促進する仕組みを持った衣服/装いであると言えるもの
  と思います。
  (本来、「衣」には上記の意味合いがあり、各国各地域それぞれ
   に伝承、繋がりを大切にしてきたものと思います。)

  また、「高価格」という面でも、高価なものを揃えていくために、
  一代だけでなく何代にも渡って揃えそれを受け継いでいったり、
  揃える過程での親の苦労等を見、知ることで想い入れを深めたり
  と、伝承や繋がりを深めてきた要素を見ることが出来ます。
  現在同様、かつて日常的にきものが着られていた時代でも、折々
  のあらたまった場面で装うきものは高価なものでした。
  しかし、各家庭の経済力に応じた形で衣装を揃え、各場面にふさ
  わしい形で装いを整えるという常識、価値観が敷延していたもの
  と思います。
  こうした点からは、現在では「個人の自由」との対比ですっかり
  薄れてきた価値観としての「公共心」(パブリックセンス)やコ
  ミュニティの一員としての「社会性」に対する鋭い感覚を見い出
  すことが出来る様に思います。
  「毎日使うものだから…」ということで、車には安全や快適性を
  求める以上の大きなお金を配分しつつ、非日常のことながら必ず
  あると分かり切っている折々の行事のための装いには間に合わせ
  程度のわずかなお金だけしか配分せずに、日々の個人生活、プラ
  イベートをエンジョイする。
  こうした現状に「いびつさ」を感じる視点、きものにはそうした
  ものを気付かせてくれる大きな価値がある様に思います。

               ◇

 きものを通じた温故知新、「スロークロージング」を進めることに
 よって、地域の独自性や多様性の素晴らしさに加え、国としての独
 自性、日本の文化、和の伝統的な価値観の中に存する自然との調和、
 繊細な感受性、繋がりを大切にする慈しみややさしさ、凛とした気
 概などの素晴らしい宝、普遍の真理を見い出すことが出来るものと
 思います。

 きものの振興に対する考え方、ビジネスとしての取り組みにも様々
 な方向があり得るものと思いますが、従来からの伝統や蓄積を持つ
 地域呉服店、メーカー等の役割は、「ファーストクロージング」と
 してのきもの着用の流れやブームに与することなく、真っ正面から
 きものの価値を捉えつつ、「スロークロージング」のナビゲーター
 として、地域の総合学習や生涯学習に参画し、産業と文化の相関/
 融合を重視し促進する中で、地域らしい街興し、地域再生において
 役割を果たしていくことにあるものと考えます。
 「スローフード」「スローハウジング」の動きとも連携して、地域
 における「スロームーブメント」を推進していく過程で、心からの
 きものに対する理解、自然にきものが馴染む環境も着実に広まって
 いくものと考えます。

 こうした動きをご一緒に進めていければ幸いに存じます。


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 2 その他

 こちら米沢は、桜にはまだ早いものの山の雪も随分と消え、春本番
 の息吹、うきうきする感覚を満喫する頃となりました。

 きものを通じた温故知新、「スロークロージング」は、単に衣服/
 装いをテーマとするだけでなく、心や精神面、地域社会の再生にも
 繋がる面をもつ様に思います。
 (「スローライフ」「スロータウン」等の「スロームーブメント」
  も含めて。)

 地元米沢・置賜地域における「スロークロージング」の展開、地域
 コミュニティの再生について、本年元日号の地元新聞「米沢日報」
 に提言が掲載されました。
 地域や社会との関わりできものの魅力を見つめ直す際の参考として
 ご覧いただければ幸いです。

 「スロークロージング Slow clothing
  米沢織・きものを通じた温故知新による地域コミュニティの再生」
  http:// nagane.kimono.gr.jp/ hideki/ messages/ 22_title_msg.html

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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[52] 長根英樹 メールマガジン - No.0024 -2002.10.08 号
 1 「スロークロージング」 〜 衣を通じた温故知新
返事を書く
    2002.10.08 14:47

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≪≪目次≫≫

 1 「スロークロージング」 〜 衣を通じた温故知新
 2 その他

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 1 「スロークロージング」 〜 衣を通じた温故知新

 近年、イタリアを発祥とする「スローフード」運動の動きが、日本
 においても様々な形で広がってきている状況が見受けられます。
 ハンバーガーや牛丼、コンビニ食などに代表される大量生産で画一
 的な“お手軽食べもの”=「ファーストフード」と対比させた反語
 として名付けられた言葉だと思いますが、単に食物の手間の掛かり
 具合を問題とするのではなく、食べ方や作り方など広く食との関わ
 り、食の在り方をテーマとした深い思想が根本になっているものと
 捉えます。

 決して、値の張る珍品を重宝がる好事家的な嗜好を意味するのでは
 なく、折々の時季や旬に見合ったものを家庭で作り家族揃って食す
 ことを基本にしつつ、家庭で及ばない部分については効率や生産性
 だけでなく、伝統の技や手間、心などの要素も勘案し、「ファース
 ト」でもよい部分とあえて「スロー」な価値にこだわる部分のバラ
 ンスを見極めて供給者を選ぼうとする動き。
 「食」を通じて、各地域における伝統的な先人の蓄積を見つめ直し、
 温故知新で現代に受け継ぎ発展させていこうという、生活文化や哲
 学、ライフスタイルにまで広げて模索追求を行う動き。
 私は、「スローフード」ムーブメントの真髄について、上記の様に
 理解をしています。

 昨今では、「スロー」をキーワードに「スローライフ」や「スロー
 タウン」などの言葉も生まれ、種々の構想が語られてきています。

 「スローフード」の考えを発展させ、ライフスタイルやまちづくり、
 社会の仕組みにも「スロー」な価値を組み込んでいく意味において
 は、「フード」=「食」とともに日常生活の根本となる「衣食住」
 の「衣」と「住」もまた、「スロー」な観点から見つめ直していく
 ことが重要になるものと考えます。

 私は、「スローフード」の動きと連動した形で、衣服装いを通じた
 温故知新の活動、いわば「スロークロージング」(slow clothing)
 のムーブメントをナビゲートする役割を果たしていきたいと考えて
 いるところです。

               ◇

 「衣」(衣服や装い)も「食」と同様に、各国、各地域独自の文化、
 すなわち価値観や美意識、心の在り様と密接な関わりを有し、相互
 に影響を及ぼし合う形で発展蓄積されてきた経緯があります。
 そして、日本の伝統的な価値観形成の土台となり、同時に和の心を
 表現してきた装いは、まさに和の服“きもの”に他なりません。

 「衣」における「スロー」な価値を考えるとき、日本における「衣」
 (和装/洋装)の歴史、「衣」(和装/洋装)によって蓄積されて
 きた知恵の総和を比較勘案するならば、和の服“きもの”を通じて
 その模索を行うことは非常に有効であり、また不可欠になるものと
 考えます。

 日本において洋装が本格的に導入されてから百年余の歳月ですが、
 現在では和装は一部の限定的な装いとなり表面的には洋装一辺倒の
 世となりました。
 しかしながら、洋装が日本の「衣」として精神文化面も含めて昇華
 され血肉となっているかといえば、必ずしもそうとはいえない状況
 にあるものと考えます。
 それは、例えば、未だにフォーマルの装いについて確信を持ったス
 タイルを見出すことが出来ずに「服飾Q&A」などでの相談が絶え
 ない状況、また真夏にオフィスの女性がカーディガンを羽織る程に
 冷房を効かせることと引き替えにしてスーツ&ネクタイスタイルを
 成り立たせている状況、エコロジカルなアンバランスなどにもあら
 われているものと思います。

 きものを通じて「衣」と精神性の関連を見つめ直し、大切にしたい
 価値観や美意識を再認識することで、あらためて和装/洋装の枠を
 越えたこれからの日本の「衣」の在り方も見えてくるのではないか
 と考えるところです。 

               ◇

 きものを通じて実感することの出来る「スロー」な価値としては、
 まず季節の移り変わりに関する敏感さ、繊細な感受性を挙げること
 が出来ると思います。
 様々なきものの素材、織物の分類、それらのコーディネイトからは、
 微妙な季節の移ろいを感じ、それを味わい楽しんで来た様子が見て
 取れます。
 特に洋装との比較では、夏素材において多様さ、繊細さ、独自の美
 意識など独自性が際立ちます。

 こうした季節に対する繊細な感性は、自然への慈しみ、感謝につな
 がり、弱いものへの優しいまなざしにつながります。
 また、花鳥風月をかぎ分け愛でる心は、自然と一体になる中で生活
 のメリハリを味わう風流、美意識につながります。
 更に、人智をはるかに越えた自然の営みへの畏敬は、人間より大き
 なものの存在を確信させ、時に高い理想へ一身をゆだねる高度な公
 私関係(武士道精神、理想主義)の基礎になったものと思われます。


 次なる「スロー」な価値として、エコロジカルな思想を挙げること
 が出来ると思います。
 きものの仕立て、布の段階活用からは、ものを大事に愛おしむ心、
 エコロジカルな思想が見て取れます。
 隙のない直線的な裁断図には、真理の強さ、美しさが表れており、
 生地を無駄にすることなく再び一枚の布に戻して活用したり、揚げ
 や繰り回しなどによりうまく再生する工夫が見て取れます。
 布は、刺し子等の補強、継ぎなどにより大切に使われますが、布と
 しての強度が落ち、破れやすくなった最終段階でも、更に細く引き
 裂かれ、再び布糸として新しい糸と共に織り込まれる裂き織り技法
 などによって最後まで活用されます。


 また、装いと精神性の関連の強さも「スロー」な価値として挙げる
 ことが出来ると思います。
 立体裁断と曲線縫いによる構築的な洋服とは違い、直線裁断と直線
 縫いが基本で平面的な構造のきものは、ある意味服としての完成度
 が低く人が身に付けることによってはじめて衣服としての体をなす
 という面があるものと思います。
 これは逆に、装いを完成させるための着装や姿勢、精神面の比重を
 高め、きものを着る、帯を締める、袴を着けるという一連の所作を
 通じて心も含めて装いを整えていくという形で、衣服の社会的な意
 味合いを意識づけることに繋がったものと思います。

 洋装、スーツにおいては、二日酔いの朝でもネクタイさえ首に回し
 ておけばそれなりに体裁が整う(それだけ、服自体の完成度が高い)
 反面、きもの姿においては、衿を正し背筋を伸ばして精神を整えな
 ければ、どうにも様にならないという面がある様に思います。
 

 他に、コーディネイト解釈や多段階の礼装表現などの面も「スロー」
 な価値として挙げることが出来ると思います。
 きものの素材、色、柄、小物も含めた深い吟味とこだわり。また、
 それらの意味性を象徴的に捉え一つのストーリーを描く高度なコー
 ディネイト解釈。
 同じ黒紋付きでもコーディネイト、着装等で多彩に着分けるなど、
 時と場、臨席の立場に応じた多段階の礼装表現により、的確にかつ
 繊細に礼の心を表現する感性。
 これらからは、知的なしゃれ心と豊かなセンス、ダンディズムなど
 日本独自の美意識を感じることが出来ます。


 各地域に根付いた独特の染織技術や文化の蓄積についても、きもの
 を通じて見つめ直すことによってその魅力を再発見することが容易
 になり、地域毎の「衣」の多様性を広げる「スロー」な価値として
 認識をすることが出来るものと思います。

               ◇

 現在、きものの“振興”や“底辺拡大”ということで、様々な立場
 から様々な方向の動きが模索されている状況かと思います。
 ブーム便乗や現代的経営(マーケティング、プロモーション等)の
 アプローチからは、ややもすると大量生産で画一的な「ファースト
 クロージング」としてのきものが生まれてくる場合があり、危惧を
 持つところです。

 私は、「振興の質」(どの様な“振興”を目指すのかという部分)
 にこだわり、きものそのものの振興よりも、「衣」と精神文化との
 密接な繋がりを踏まえつつ和の心、日本の伝統的な価値観の振興と
 いう面において役割を果たしていきたいと考えています。
 想いや方向性を同じくする方々と連携を深めつつ、更なる模索探求
 を進めていければ幸いに存じます。


 今号は、「スロークロージング」という観点からの再整理で、過去
 の既刊号と重複する部分があります。
 各テーマについて詳しくは、以下のバックナンバーをご参考にいた
 だきたくご案内いたします。

               ◇

 【参考】
  ■ メールマガジン - No.0018号
    きものを通じて、温故知新 ― 日本の伝統的価値観を再構築
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 46_index_msg.html

  ■ メールマガジン - No.0017号
    衿元の美意識 〜 覚悟の解放
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 45_index_msg.html

  ■ メールマガジン - No.0019号
    夏袴の凛 ― 男の透け素材
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 47_index_msg.html

  ■ メールマガジン - No.0021号
    きものダンディズム
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 49_index_msg.html


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 2 その他

 こちら米沢は、山がじょじょに黄赤に色づき始め、間もなく紅葉の
 本番を迎える季節となりました。
 長く厳しい雪国の冬を控えほんのつかの間の秋ですが、実り豊かで
 錦繍の美しい時季、食に温泉にきものにと自然の恵み、ゆったりと
 した時の流れを満喫したいと思う今日この頃です。
               
 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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  発行責任者 きもの村 村長 長根 英樹 NAGANE HIDEKI   

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 今号は、メールマガジン発行プログラムの操作ミス(ダブルクリック)
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 おわび申し上げます。

 
[51] 長根英樹 メールマガジン - No.0023 -2002.05.28 号
 1 「美しいキモノ - 夏号」にてコーディネイト紹介
返事を書く
    2002.05.28 18:06

≪≪目次≫≫

 1 「美しいキモノ - 夏号」にてコーディネイト紹介
 2 その他

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 1 「美しいキモノ - 夏号」にてコーディネイト紹介

 先日発売の雑誌「美しいキモノ−夏号」(アシェット婦人画報社刊)
 では、「夏の男もの〜素材と趣を着る」のテーマで男の夏きものの
 特集が組まれています。

 今回の特集は、日本ならではの多彩な夏素材(織物)に着目をして、
 ことさら色や柄、変わりアイテム/小物などで奇をてらうことなく、
 “抑制の中の美/贅”といった形で、素材本来の持ち味を活かして
 その高度な使い分けを楽しむという正統派の「きものダンディズム」
 紹介になっているものと思います。

 私も、2月に編集者の米沢訪問を受け、その後打ち合わせや提案等
 編集協力を進めてきて、変わり紗羽織、絽角帯の他、竪絽野袴、紋
 絽馬乗り袴のトータルコーディネイトを提案しているところです。
 (P293, P294, P296, P299)

 男のきもの、特に夏場の装いに関しては、ゆかた以外にまとまった
 形で紹介される場面が少ない状況にありますので、是非この機会に
 誌面をお手にとってご覧いただきたく、ご案内いたします。

               ◇

 ご参考に、今回誌面でご紹介した製品/コーディネイトについて、
 以下にご案内をいたします。

 ■ 紋絽袴コーディネイト(P299 右)
  ・羽織/長着 「三本駒絽」 :米沢 鈴源織物
  ・袴     「紋絽袴」  :米沢 鈴源織物

   極細の糸に強い撚(より)をかけた駒撚糸(こまよりいと)を
   用いて緻密に織り上げた駒絽(こまろ)の羽織と長着、色違い
   での組み合わせ。
   ベースとなる平織り部分に3本の(3回)緯糸(よこいと)を
   通し、その後経糸(たていと)を捩り(もじり:糸を2本対で
   交差させることにより透け目をつくる手法)絽目を通すことを
   繰り返した三本絽(さんぼんろ)。

   強撚の駒撚糸を密度高く織り上げていることで、女性のフォー
   マル素材として用いられる平絽(ひらろ)などと違い、薄く透
   ける盛夏の素材ながらしっかりとした張りと着心地が味わえる
   地風が特徴の、男きもの(男織物)とでも表現したくなる趣と
   なっています。

   青系統の羽織と長着にあわせた落ち着いた鼠色の袴は、非常に
   凝った織り技が際立つ訪問袴で、ベースとなる地織(じおり)
   部分が平織りではなく梨地の紋織りとなっています。
   加えて、1回捩って1本(1回)緯糸を通し、更に続けて捩る
   ことで2本揃いの絽目を通した変わり紋絽(もんろ)となって
   います。

   絽の縞袴をあわせた格式高いフォーマルスタイルとは別の価値
   観で、素材&技の贅を愉しむ男の訪問着としてのフルコーディ
   ネイトとなります。
   

 ■ 竪絽袴コーディネイト(P299 左)
  ・羽織    「駒紗 葵」 :米沢 鈴源織物
  ・長着    「座繰り粋紗」:米沢 鈴源織物
  ・角帯    「絽角帯」  :米沢 鈴源織物
  ・袴     「竪絽袴」  :米沢 鈴源織物

   上記駒撚糸を用いて、絽と違い一段毎に捩りを繰り返し全体に
   透け味を表現した本紗織物、駒紗(こましゃ)の鼠色羽織。

   長着は、中繭(なかまゆ:通常のきれいな繭)を機械引きでは
   なく、湯で煮て柔らかくなったところを手で繰り引いた座繰り
   糸(ざぐりいと)を用いて織り上げた粋紗(すいしゃ)織物。
   機械引きと違って、手技で自然に引かれた座繰り糸は、過度な
   張力がかかることなく糸に余力の感じられるニュアンスがあり、
   また所々に自然な糸の繋ぎ目による微妙な節(玉糸による紬の
   節とは違い、かなり控えめです)が見られ趣を醸し出します。

   粋紗は、糸に強い撚をかけて(粗めに)織り上げ、仕上げ段階
   (整理工程)にて湯に通し撚を戻すことによって自然の隙間を
   表現する夏織物です。
   夏御召、夏結城、夏大島、明石縮など、捩りを用いない夏織物
   の代表的な織り技法となります。

   誌面では、濃い色無地に見える長着ですが、黒地に白の微塵縞
   (みじんじま)を通したもので、襦袢の透け具合とともに涼感
   が際立つ夏の黒きものです。

   モノトーンの羽織と長着にあわせた袴は、夏の空海をイメージ
   させるブルーと大胆に縦方向に通した絽目が凛とした爽やかさ
   で全体のコーディネイトにアクセントをつけます。
   撚糸を密度高く織り上げることで、涼感溢れる透け味を表現し
   ながらも張りとコシをもった地風が生まれています。
   襞(ひだ)の折り込みはたっぷりと取りつつ、裾をスリムにし
   ズボン調に仕上げた野袴(のばかま)のオリジナルデザインは、
   現代の生活空間やリズムにあった袴形(はかまなり)の流儀と
   美を演出します。


 ■ 変わり紗羽織(P293)
  ・羽織    「夏物語」  :米沢 鈴源織物

   誌面では色の判別が難しいかもしれませんが、濃緑をベースに
   芥子色(からしいろ)と牡丹色(ぼたんいろ)の色糸を用いて
   “夏の玉虫”を表現した趣豊かな夏羽織です。

   高度な捩り織りによって、複雑な透き間を立体的な形で表した
   変わり紗織物、だんご紗。

   端正で落ち着いた表情の上記本紗(駒紗)とは別の趣を持ち、
   凝った洒落味が感じられます。
   あらたまり過ぎないで、替え上着ならぬ替え羽織といった感覚
   で夏の羽織姿を愉しむ着道楽な通人にお薦めの逸品です。


 ■ 絽角帯(P294 右, P296 右)
  ・角帯    「絽角帯」  :米沢 鈴源織物

   大胆な絽目が通った、単衣/盛夏時季の角帯ですが、しっかり
   とした織り味が特徴で、締め心地に頼りなさはありません。
   質実さが魅力の夏角帯です。

               ◇

 【参考】
  ■ 美しいキモノ:アシェット婦人画報社
http:// www.hfm.co.jp/ magazines/ utsukushiikimono/ new.htm

  ■ 米沢 鈴源織物 有限会社
http:// www.omn.ne.jp/ ~suzugen/ men/ 02a.html


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 2 その他

 こちら米沢は、山に様々な緑が自然のグラデーションをおりなして
 目を和ませるおだやかな季節となりました。
 暑くもなく、寒くもなく、とても気持ちの良いこの時季。
 何かふつふつと新たな意欲もわき上がってきます。
 この一年、どの様につばさを広げていけるか、可能性に期待がふく
 らむ今日この頃です。

               ◇

 さて、ここでウィルスメールについてご案内。
 このところ、自分のパソコンデータの中から自動的に他人のメール
 アドレスを抽出して、発信元を偽装した形でウィルスメールを送信
 する「W32/Klez:通称クレズ」というコンピュータウィルスが
 猛威をふるっている様子です。

 詳しくは、以下の専門組織のサイトに情報がありますが、
 ■ 情報処理振興事業協会 セキュリティセンター(IPA/ISEC)
http:// www.ipa.go.jp/ security/ topics/ newvirus/ klez.html

 ・メールを開いたりプレビューするだけでも感染する可能性がある。
 ・送信アドレスには、ウィルスの感染により自動的にメール送信が
  おこなわれたマシンユーザのアドレスが入ることはほとんどなく、
  他者のアドレスが偽装されるため実際の送信者の特定が難しい。
 ・携帯電話、Macintoshがウィルス感染することはない。
 上記の様な特徴があるとのこと。

 実際に、私のところにも、私のメールアドレスを発信元に偽装した
 メールが届いたり、またそうしたメールを受け取った方から連絡を
 いただいたことがありました。(nagane@kimono.gr.jp です。)

 私はMacのパソコンを使っておりまして、このウィルスへの感染
 可能性はありませんし、送信したこともありませんので、ウィルス
 による感染マシンからの自動抽出によって発信元(From 欄)が
 偽装されこうした発信がなされたものと思います。

 社会に疑心暗鬼を生む悪質陰湿な性格のウィルスですので、専門の
 サイト等で正確な情報を把握すること、また冷静に対処をしていく
 ことが重要になるものと思います。

               ◇

 ご紹介の「美しいキモノ」誌面をご覧になり、実際に産地米沢にて
 男の夏織物、織元の見学をご希望の方は、どうぞメールにてご連絡
 ください。
 スケジュールを調整の上ご案内をさせていただきたいと思います。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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  メールマガジン 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介
           ― きものダンディズム ―

  発行責任者 きもの村 村長 長根 英樹 NAGANE HIDEKI   

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[50] 長根英樹 メールマガジン - No.0022 -2002.02.27 号
 1 カルザイ議長スタイルの反響ときものダンディズム
返事を書く
    2002.02.27 20:28

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            きものダンディズム

        2002.02.27 No.0022  配信数:0344  
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≪≪目次≫≫

 1 カルザイ議長スタイルの反響ときものダンディズム
 2 その他

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 1 カルザイ議長スタイルの反響ときものダンディズム

 今ファッション界ではアフガニスタン暫定行政機構カルザイ議長の
 スタイルに注目が集まっている状況です。
  ・「ヴォーグ」誌:「もっともエレガントな男性」の1位に選出。
  ・英国「BBC」放送:「カルザイ首相は古典(クラシック)と
   民族的なもの(エスニック)を結合させる才能がある」と論評。
  ・「グッチ」:カルザイテイストの新たなモードを開発中とか。

 自国の文化に誇りを持ちつつ、伝統的なスタイルを時代に合わせた
 インターナショナルな感性で着こなすカルザイ氏の装いは、世界に
 対してアフガンの文化性を発信すると共に、自国民に対してもアイ
 デンティティの再確認と国家への誇りをもたらそうとする政治的な
 メッセージであったと考えます。


 カルザイ氏は米国在住経験などもありますので、当然のことスーツ
 スタイルの基礎は持っていて、議長就任以前はスーツ&ネクタイの
 コーディネイトも見られました。
 
 議長就任後は状況や立場を踏まえて、あえて伝統の継承を意識した
 “和+洋折衷”ならぬ“アフガン+洋折衷”のスタイルを選択して
 いるものと思います。

 西洋スーツスタイルの意味合いを完璧に踏まえた上で、時と場所、
 状況に応じて自国の伝統的なスタイルを現代に昇華させた形で装う
 という良い意味でのフレキシビリティ、深みのある装い術を見て、
 ファッション界のデザイナー、ジャーナリスト達はメンズスタイル
 の新たなフィールド(可能性)を見出した気持ちでいるものと思い
 ます。

              ◇

 衣服、装いの持つ文化的意味合いや政治的メッセージ性の強さは、
 今回の事例に限らず歴史を遡って見出すことが出来、自国の伝統を
 時代に応じ昇華させつつインターナショナルな形で装うスタイルは、
 日本においても、明治初期、紋付き羽織袴にブーツスタイルの特命
 全権大使岩倉具視に率いられ西洋を巡った「岩倉使節団」において
 確認することが出来ます。
http:// www.iwakura-mission.gr.jp/

 岩倉具視、大久保利通、伊藤博文他、そうそうたるメンバーによる
 岩倉使節団は、その立ち居振る舞いやマナーの優雅さ、品格から、
 各地で大歓迎されると共に深い尊敬を受けたと聞きます。

 国独自の価値観をもちつつ、それを普遍的な価値観として発展昇華
 させていける様に国際的な提案、訴求を行っていくこと。
 こうした中に誇りは生まれ、新たな国際的な枠組みが生まれていく
 ものと思います。

              ◇

 「衣」「食」「住」の一番最初にあげられる「衣服」。
 衣服装いは、それぞれの人々や地域、国の文化、すなわち価値観や
 美意識、心の在り様と密接に関わり、相互に影響を及ぼし合う関係
 にあります。
 そして、日本の伝統的な価値観形成の土台となり、同時に和の心を
 表現してきた装いは、まさに和の服“きもの”に他なりません。
 「襟を正す」「折り目正しく」「板に付く」等の言葉にも、きもの
 から育まれた感性、文化が残っています。

 その意味から、西洋スーツスタイルを本国のダンディ達よりも深く
 理解し体得実践されている日本のダンディのみなさんに、是非とも
 「きものダンディズム」についても体感をしてもらいたい、そして
 そのプロデュースをさせていただければと思っております。

              ◇

 これから夏にかけて、西洋のスーツ素材とは別にきものでは非常に
 多様な素材(織り表現)が出てきます。
 きものを素材の面から見た場合、夏こそ西洋スタイルと違った日本
 ならではの独自性、きものの醍醐味が感じられるものと思います。

 例えば、西洋スタイルでは、男性がシースルー(透け素材)を着用
 するという感性はほとんどないものと思います。
 西洋ダンディズムからすれば、シースルーは女性的であり、男性に
 似つかわしくない(浮ついた)印象があるものと思います。

 しかしながらきものにおいて、薄色のきものの上に黒などの透ける
 羽織を重ねてモアレ模様の透け感を楽しむ中には、大人の落ち着き
 感や男の色気が感じられます。
 また、暑い中、透ける袴姿からは、爽やかな涼感と凛とした気概が
 感じられます。

 この様に、きものスタイルでは、シースルーを浮ついた形ではなく、
 男性的な形で着こなす独自のダンディズムがあります。
http:// www.omn.ne.jp/ ~suzugen/ men/ 02a153-aoi.html
http:// www.omn.ne.jp/ ~suzugen/ men/ 02e9707.html


 日本の風土から育まれた感性や美意識による全く独自の価値観を、
 インターナショナルな形で提示し得るだけの蓄積を現に“きもの”
 は有しており、我々は先人から「きものダンディズム」を受け継ぎ
 現代に昇華させていく「使命」と共に「贅沢」を授かっているので
 はないかと考えるところです。

 みなさんとご一緒に「きものダンディズム」の真髄を探り、様々な
 実践や提案を進めていければ幸いに存じます。

 どうぞよろしくお願いいたします。


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 2 その他
 
 こちら米沢は、昨年12月の大雪とは対照的に暖かい冬を過ごして
 います。
 雪も少なく随分と日々の動きが容易で、適度に冬をエンジョイする
 ことが出来ました。
 (雪国に慣れてしまうと、あまり雪のない冬は却って落ち着かない
  気分になってしまうものです。)

 米沢の春は一斉に花が開き、長い冬に縮こまっていたものが一気に
 解き放たれる躍動感に満ちた季節となります。 

 みなさんがスーツスタイルを極めてきた過程は、より多くの上質な
 ものを直接目にしてきた積み重ねであったものと思います。
 きものにおいても、総合メーカーのラインナップをトータルで見る
 ことから各自のスタイルの確立が始まるものと考えます。

 是非この春、米沢に「きものダンディズム」のエッセンスを訪ねて
 お立ち寄りいただきたく、ご案内をいたします。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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[49] 長根英樹 メールマガジン - No.0021 -2001.12.06 号
 1 きものダンディズム
返事を書く
    2001.12.06 13:57

 ◆◇ 御召 ◆ 紬 ◇ 着尺 ◆ 羽織 ◇ 袴 ◆ 帯 ◇◆
 ――――― 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介 ――――

            きものダンディズム

        2001.12.06 No.0021  配信数:0347  
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 ◆ ◇ ◆ きもの村 http:// www.kimono.gr.jp/ ◆ ◇ ◆


≪≪目次≫≫

 1 きものダンディズム
 2 その他

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 1 きものダンディズム

 こちら米沢は、わずかながらも初雪が降り、いよいよ雪国の長い冬
 本番に向けて心の準備を整える頃となりました。
 1995年の晩秋、米沢織織元鈴源織物の「きものホームページ」
http:// www.omn.ne.jp/ ~suzugen/
 開設をサポートして以来、丸6年となります。

 当時は、まだ Yahoo!(JAPAN)もない頃で、きもの関連のホーム
 ページもほんの数件。
 その後、徐々に増えていきましたが、きもの仲間(ユーザー)の間
 では、“(自分で)着られない”“着る機会がない”ということが
 大きな悩みとして語られていた状況でした。

 昨今では、様々なホームページを含めて随分ときもの関連の情報が
 豊富になってきました。
 また、きもの仲間の交流も随分と広がり、ショッピングや食事など
 日常的なきもの着用を楽しむ形で、かつての“着る機会がない”と
 いう悩み(特別な機会でないときものは着られないという心の壁)
 は解消されてきた様に思います。

 今後、きものの楽しみは、各人の好みやテイストに応じたスタイル
 (流儀)の追求という方向に進んでいくものと思います。
 私は、男のきもの、きものダンディズムという方向でご提案、交流
 を広げていきたいと考えております。

               ◇

 私がきものの魅力に目覚め、きものの世界に入った5、6年前は、
 お店を訪ねても男のきものを置いてある店がなかなか見つからない
 (置いてあってもごくわずか)という状況でした。

 現在では、男ものを扱うお店も増えてきて、単に反物を揃えるだけ
 でなく、楽しみ方(着方、コーディネイト等)も含めた形で提案の
 幅が広がってきた様に思います。

 しかしながら、洋装の世界と比べると、それぞれの好みやテイスト
 に応じた分化という段階にまでは進んでおらず、男のきものの総合
 ショップ(コーナー)はあっても、専門店といえる様な“独自色”
 のある深い提案、サービスは見つけにくい様に思います。

 男のきものの場合、分化して行くにはまだまだユーザーの絶対数が
 少ない、という状況もあろうかとは思いますが、
 ― 英國屋、ビームス、ユニクロ…の他、ブランド直営店や
   個性豊かなこだわりの個人オーナーショップ/サロンなど ―
 洋装の世界で、ユーザー側にスタイルに応じた選択肢がある様に、
 きものの世界でも選択の幅が出てくることが、提供側、ユーザー側
 双方のレベルアップ、豊かさUPに繋がるものと思います。

               ◇

 スタイル追求には、カジュアルテイストやモダン指向、トラッド/
 コンサバ…など様々な方向があろうかと思いますが、私は、装いと
 精神性の関連を重視した形で、「きものダンディズム」をテーマに
 深めていきたいと考えています。

 「衣食住」と言われる様に、衣服装いは、それぞれの人々、地域、
 国の文化、すなわち価値観や美意識、心の在り様と密接に関わり、
 相互に影響を及ぼし合う形で発展してきたものと思います。

 ― 男のお洒落は決して西洋にだけあったものではなく、
   日本にも独自の奥深い世界が、単なるデザイン要素を越えて、
    高度な精神基盤の上に形づくられていた ―
 私は、きものを装うことによって、日本の伝統的な価値観、美意識、
 繊細な感受性や凛とした理想主義など、精神面の魅力を再認識する
 ことが出来ました。

 明治維新直後、政府派遣により欧米諸国を回った「岩倉使節団」の
 一行は、きものを装い威風堂々とした立ち居振る舞いで、その上品
 な礼儀作法は各国で非常に高い評価、尊敬を得たと聞きます。
 自国の文化、自己の在り方に自信を持ち、気概を持って堂々と振る
 舞うことの出来る装いの流儀、ダンディズムとはそうしたスタイル
 から生まれるエスプリであると考えます。

               ◇

 男のきものにおいて、日本ならではの風土や季節感、自然を愛でる
 心持ちが表れる要素として、「素材/織表現」があげられるものと
 思います。
 四季のみならず、二十四節季をも繊細に感じ分け、季節感を装いに
 取り入れることで楽しむ感性。
 こうした豊かな感性と多彩な「素材/織表現」とは密接に関連をし、
 互いに影響を及ぼしあってきたものと思います。
 私は、「素材/織表現」に想い入れを持ち「きものダンディズム」
 を追求して行きたいと考えています。

 また、きものスタイルを「ハレ」と「ケ」、フォーマルとカジュア
 ルとの形で二分し捉えるのではなく、ソーシャル/ビジネスの場面
 も加えて解釈すると共に、このソーシャル/ビジネス場面の装いを
 整えるアイテムとして「袴」に着目をしたいと思います。
 従来のベーシックな裾広がりタイプの袴の他に、裾をスリムにして
 活動性を高めたズボンタイプの袴についても、デザインのリファイ
 ンやトータルコーディネイトを探り、「袴」の美しさ、意味合いを
 見つめ直したいと思います。
 私は、「袴」に想い入れを持ち「きものダンディズム」を追求して
 行きたいと考えています。

 この他、広い意味できものと精神性の関連を重視し、折々における
 実際の装いを通じて、きもの心、和の心、日本の伝統的な価値観/
 美意識を見つめ直したいと思います。
 私は、「精神性との関連(スピリチュアルな部分)」に想い入れを
 持ち「きものダンディズム」を追求して行きたいと考えています。

               ◇

 素晴らしい先人の蓄積、伝統も、世代の交替によって徐々に失われ
 つつあります。
 私は、縁あって米沢の質実な織物と直に接する機会を得ましたが、
 きものの魅力、特にスピリチュアルな部分は奥深く、様々な立場、
 視点からの掘り起こしや検証が大切になってくるものと思います。

 今後、「きものダンディズム」をテーマとして、みなさんとの交流、
 コラボレーションを進めて参りたいと存じます。

 どうぞよろしくお願いいたします。


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 2 その他
 
 今号から、本メールマガジンのタイトルをリニュアルいたしました。
 以降、「【男のきもの】きものダンディズム」としてお届けいたし
 ます。

 なお、メルマガ配信システム「まぐまぐ」の登録タイトルは変更が
 出来ませんので、
  登録タイトル:「【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介」
  サブタイトル:「【男のきもの】きものダンディズム」
         「きものダンディズム」
 との形で運用をして参ります。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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[48] 長根英樹 メールマガジン - No.0020 -2001.09.03 号
 1 秋の米沢へ 〜 上杉鷹山生誕250周年祭「YOZANフェスティバル」
返事を書く
    2001.09.03 10:40

 ◆◇ 御召 ◆ 紬 ◇ 着尺 ◆ 羽織 ◇ 袴 ◆ 帯 ◇◆
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       【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介

        2001.09.03 No.0020  配信数:0348  
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 ◆ ◇ ◆ きもの村 http:// www.kimono.gr.jp/ ◆ ◇ ◆


≪≪目次≫≫

 1 秋の米沢へ 〜 上杉鷹山生誕250周年祭「YOZANフェスティバル」
 2 その他

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 1 秋の米沢へ 〜 上杉鷹山生誕250周年祭「YOZANフェスティバル」

 こちら米沢は、日中暑さが残るものの朝夕は涼しくなり、大分秋の
 気配が感じられる様になってきました。
 山にはススキも出そろい、一足早くお月見準備も万端の様子です。

 さてこの秋、米沢では、新たな総合文化施設のオープンと上杉氏の
 アニバーサリーが重なり、大きなお祭りが開催されます。
 秋の気持ち良い季節、名物料理の芋煮や温泉と織元見学も合わせて
 是非この機会に米沢にお立ち寄りいただきたくご案内いたします。

               ◇

 米沢の秋イベントは、米沢市と山形県との合築による総合文化施設
 「伝国の杜」米沢市上杉博物館+置賜文化ホールの完成オープンと
 上杉氏入部&上杉鷹山公生誕のアニバーサリーを絡めて祝うと共に、
 新たなこころの文化をつくっていくムーブメントのきっかけとして
 地域をあげて取り組み盛り上がろうというお祭りです。
 
 「上杉鷹山生誕250年祭・上杉氏米沢入部400年記念
  YOZANフェスティバル−米沢・こころの文化祭21−」
 9月29日(土)〜10月21日(日) 23日間の開催です。
  http:// www.vivi.ne.jp/ yozan/


 米沢織の関係では、鷹山偉業館3「米織館」として、米沢織の魅力、
 美を存分に満喫できる米沢ならではの展示館も開設されます。

 また、そもそも上杉鷹山公は地域産業としての米沢織の基礎基盤を
 形づくった名君であり、その質実でかつ果てしのない広がりをもつ
 理想主義のスピリッツは、当時の裃(かみしも)地から脈々と受け
 継がれ、現在においても、全国生産量の9割を誇る袴を代表とする
 男のきものに色濃く残されています。

 きものを装うことを通じて、心の安らぎや程よい緊張感、自分本来
 の流儀/スタイルに馴染む様な感覚を感じ、素材や色柄、形だけで
 ないきものの魅力、すなわちきもの心の魅力、その奥深さに惹かれ、
 それを探りたいとお考えのみなさんには、是非この機会に、鷹山公
 を多面的に見つめ直すことで想いを深めていただきたいと思います。

 今から約100年前、日本の文化、スピリッツを海外に伝える趣旨
 で書かれた2つの名著、内村鑑三の「代表的日本人」、新渡戸稲造
 の「武士道」において取り上げられ紹介された鷹山公の人となりを
 探ることで、必ずや琴線を揺さぶる和の心の神髄を見いだすことが
 出来るものと思います。

 上杉鷹山公は、今日の私たちに、質実な織物としてのきものと共に、
 もう一つ、きもの心=和の心というスピリチュアルな財産を残して
 下さったのだと思います。


 私は、縁あってこの米沢に参り、米沢織を紹介する立場にあります
 ので、鷹山公のスピリッツ、きもの心の本質を大切にして、想いを
 同じくするみなさんと一緒にその魅力を探っていきたい、そのコー
 ディネイトをしていきたいと考えています。

 どうぞよろしくお願いいたします。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 2 その他
 
 前回5月の配信からずいぶんとご無沙汰をいたしました。
 初夏から真夏にかけて、絽や紗のきもの、袴と共に、ずいぶんと色、
 柄、デザイン共にバリエーション豊富になった作務衣/甚平を愛用
 しました。
 自分のスタイルに合わせてきもの、和装の実践を楽しみつつ、その
 情報化は長いお休みをいただいた形です。

 本メールマガジンも、1999年11月末の創刊から後しばらくで
 2年になります。
 当初は毎月1回ほどの配信ペースで考えていましたが、今後は少し
 ゆったりペースでお届けをしていきたいと考えています。
 気長にお付き合いをいただきたく、お願いいたします。

               ◇

 秋の米沢路、実際にお立ち寄りの計画をお持ちの方は是非お早めに
 お声掛けをいただきたく。
 織元の見学をコーディネイトして、ご案内をさせていただきたいと
 思っています。
 (週末は工場がお休みとなりますので、ウィークデイが調整の基本
  となります。)

 この機会に、ネット、メールでのお付き合いから一歩進んで、顔と
 顔を合わせてのお話、交流が生まれますこと、楽しみにしています。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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[47] 長根英樹 メールマガジン - No.0019 -2001.05.08 号
 1 夏袴の凛 ― 男の透け素材
返事を書く
    2001.05.08 17:35

 ◆◇ 御召 ◆ 紬 ◇ 着尺 ◆ 羽織 ◇ 袴 ◆ 帯 ◇◆
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        2001.05.08 No.0019  配信数:0342  
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 ◆ ◇ ◆ きもの村 http:// www.kimono.gr.jp/ ◆ ◇ ◆


≪≪目次≫≫

 1 夏袴の凛 ― 男の透け素材
 2 その他

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 1 夏袴の凛 ― 男の透け素材

 こちら米沢は、雪国の遅い桜、春の息吹を満喫するお祭りも終わり、
 いよいよ新緑の頃となりました。
 今号ではこれからの暑い季節に向けて、夏の装い、奥深い着道楽の
 こだわりについてご案内したいと思います。

               ◇

 男のきもの夏の装いは、殊更洋装スーツスタイルとの違いが際立ち、
 きものならではの素材の楽しみ、醍醐味が味わえる装いになるもの
 と思います。

 蒸し暑い日本の夏、この気候に合わせ我が国では、男のきものでも
 シースルーの透ける素材が工夫され、用いられてきました。
 アジア、中東においては見られますが、ヨーロッパでは男性の装い
 の中でシースルー素材が用いられる例は、ほとんど見受けられない
 ものと思います。

 スーツスタイルでは難しいシースルーの素材使いも、きものを装う
 ことによって堂々と楽しむことが出来、尚かつ日本紳士の美意識、
 色気、ある種の華やかさ、凛を実感することが出来ます。

 
 羅(ら)、紗(しゃ)、絽(ろ)、粋紗(すいしゃ)など、様々な
 透け素材、織物がありますが、かつてのダンディ達はこれを巧みに
 セレクトしてトータルでのコーディネイトを楽しみ、その完成度、
 オリジナリティをそれぞれに追究して来ました。

 透ける羽織を合わせることで、着姿に風格と涼感、男の色気の様な
 ものが演出されます。

 また、あらためて見直したいアイテムとして夏袴があげられます。
 昨今では、稽古事でよくきものをお召しになる方々の間でも、夏の
 袴を用意されないことが多い様にも聞きますが、やはり大いに季節
 感を味わい、暑い夏を積極的に楽しむ意味でも、夏袴の魅力に注目
 をいただきたいものだと思います。

               ◇

 夏袴にも様々な織物素材の種類がありますが、やはり透ける涼感と
 ともにピシッと襞目の通る張り、腰の強さが、柔らかな印象のある
 女性の透け素材との大きな違いになると思います。

 夏袴といえば、絽袴が一般的となりますが、同じ絽でも横に透ける
 ライン(絽目:ろめ)が通る横絽(よころ)もあれば、縦に絽目が
 通る竪絽(たてろ)もあります。

 絽目の間隔、その規則性にも様々なバリエーションがありますし、
 糸の撚(より)具合や織り設計によっても張りなどの生地風合いが
 異なってきます。
 凝った逸品の中には、織のベース部分を紋織りにした紋絽(もんろ)
 などもあり、着道楽の奥は深まります。

 他に、紗袴や紋紗袴、無双織りになった紗無双袴などもありますが、
 これらは近年の着用人口、需要の減少により定番から外れ、別注品
 になってきている状況があります。


 米沢は、全国の袴生産量の9割以上を占める(米織組合調べ)袴の
 生産地で、夏袴のバリエーションも豊富です。

 袴は礼装用途の縞柄のものに限らず、外出(お出かけ)用には無地
 などの夏袴もあります。
 私は、馬乗り型に仕立てたものの他に、裾をスリムにした野袴スタ
 イルでも仕立てて揃えており、足捌きが容易で動き易い夏袴として
 愛用をしています。


 夏袴も、長着・羽織・帯等とのトータルコーディネイトで、微妙な
 色目やテイストにこだわりたいという方には、アイテムの面でも、
 季節素材の面でも、糸使い(御召/紬)の面でもセレクトの可能な
 総合メーカー「鈴源織物」のラインナップをご覧になられることを
 お勧めいたします。


 この夏は日本ならではの季節素材を身に纏い、奥深いきものの魅力
 を存分にお楽しみいただきたくご案内申し上げます。

               ◇

 【参考】
  夏の略礼装一揃い 横絽紋袴馬乗り仕立て
   http:// www.omn.ne.jp/ ~suzugen/ men/ 02a153-aoi.html


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 2 その他
 
 今年米沢は、秋に山形県と米沢市の合築による新文化施設(博物館
 &ホール)がオープンし、また上杉氏入部400年と上杉鷹山公の
 生誕250年の節目と重なることもあって、年間を通して記念事業
 「上杉鷹山生誕250年祭」が開催されています。

 メインイベントは、秋の新文化施設の開館と合わせた「YOZAN
 フェスティバル」で、9月29日〜10月21日までの開催となり
 ます。

 米沢織りの魅力についてはもちろんのこと、地域の様々な文化産業
 についてのプレゼンテーションがありますので、是非とも秋の味覚、
 温泉とともに米沢・置賜地域の魅力を味わいにお立ち寄りいただき
 たくご案内いたします。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。


                   きもの村 村長 長根 英樹

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[46] 長根英樹 メールマガジン - No.0018 -2001.04.01 号
 1 きものを通じて、温故知新 ― 日本の伝統的価値観を再構築
返事を書く
    2001.04.01 01:40

 ◆◇ 御召 ◆ 紬 ◇ 着尺 ◆ 羽織 ◇ 袴 ◆ 帯 ◇◆
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        2001.04.01 No.0018  配信数:0348  
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≪≪目次≫≫

 1 きものを通じて、温故知新 ― 日本の伝統的価値観を再構築
 2 その他

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 1 きものを通じて、温故知新 ― 日本の伝統的価値観を再構築

 きものを通じての温故知新。
 新たな時代に日本の伝統的価値観を再構築するに際して、きもの、
 きもの心の持つ意義、可能性について考えをご案内いたします。

               ※

 新たな時代の精神、心の在り様、価値観や文化を、今一度
 あらためてつくり上げる意味において、自分自身の内部、
 日本の内部にあるものを見つめ直して、その本質的意義を
 探る「温故知新」が大切になると考えます。

 日本文化の伝統的な価値観、先人達の蓄積のすばらしさ。
 私はこれらのものを、きものを通じて、観念的にではなく、
 衣服を身に着けるという生活に根ざした形で体感し、普遍
 的な価値を持つもの、新たな時代を担う価値観となるもの
 として確信を得ることが出来ました。

 「衣食住」と言われる様に、衣服装いは、それぞれの人々、
 地域、国の文化、すなわち価値観や美意識、心の在り様と
 密接に関わり、相互に影響を及ぼし合う関係にあります。
 そして、日本の伝統的な価値観形成の土台となり、同時に
 和の心を表現してきた装いは、まさに和の服“きもの”に
 他なりません。


 きものを着ていると、季節の移り変わりに関する敏感さ、
 繊細な感受性を実感します。
 様々なきもの素材、織物の分類、それらのコーディネイト
 には、微妙な季節の移ろいを感じ、それを味わい楽しんで
 来た様子が見て取れます。

 春夏秋冬、四季の分類だけではなく、更に細かく分類した
 中国伝来の二十四節季も感じ分け、実際に生活慣習や衣服
 装いの中に取り入れてきた繊細な感性。
 これは、自然への慈しみ、感謝につながり、弱いものへの
 優しいまなざしにつながります。
 私の第二の故郷である山形県南部の米沢、置賜地域には、
 「草木塔」という、自然の木や草花を供養する搭が数多く
 残されています。

 また、花鳥風月を愛でる心は、自然と一体になる中で生活
 のメリハリを味わう風流、美意識につながります。
 更に、人智をはるかに越えた自然の営みへの畏敬は、人間
 より大きなものの存在を確信させ、時に高い理想へ一身を
 ゆだねる高度な公私関係の基礎になったものと思われます。


 きものの仕立て、布の段階活用には、ものを大事に愛おし
 む心、エコロジカルな思想を感じることが出来ます。
 隙のない直線的な裁断図には、真理の強さ、美しさが表れ
 ており、生地を無駄にすることなく再び一枚の布に戻して
 活用したり、揚げや繰り回し等によりうまく再生する工夫
 が見て取れます。
 布は、補強、継ぎ等により大切に使われますが、布として
 の強度が落ち、破れやすくなった最終段階でも、更に細く
 引き裂かれ、再び布糸として新しい糸と共に織り込まれる
 裂き織り技法などにより最後まで活用されます。


 きものの素材、色、柄、小物も含めた深い吟味とこだわり。
 また、それらの意味性を象徴的に捉え一つのストーリーを
 描く高度なコーディネイト解釈。
 時と場、立場に応じた多段階の礼装表現など。
 これらからは、知的なしゃれ心と共に豊かなセンス、大人
 の男のダンディズムなどを感じることが出来ます。


 「襟を正す」「折り目正しく」などの言葉がありますが、
 礼装、公的な装いスタイルからは、公私のメリハリを大切
 にする心や覚悟が感じられます。
 気軽な着流しスタイルとは違い、公的な装いである袴姿は
 凛と気持ちを引き締め、装う側にある種の覚悟を求めます。
 「仁」という愛徳をもって治め、「忠」の義により理想に
 身を委ねる武士道精神は、紋付き袴スタイルであればこそ
 心に宿ったエスプリであったと考えます。

               ◇

 ここで武士道の精神について、あらためて見つめ直しその
 神髄を探りたいと考えます。
 武士道は、私の第一の故郷、生まれ育った岩手県の新渡戸
 稲造博士が、諸外国に日本の文化、精神基盤を伝えようと
 約百年前に英文で著した書です。
 現代では、かつての封建的な主従関係の要諦を解説した、
 古い日本文化論として捉えられる面もあるやに見受けます。

 しかし私は、昔話としては捉えておらず、新たな時代にも
 活きる深い示唆を与えてくれるものと捉えています。
 そしてその示唆は、文中において紹介のある一君主の言葉
 に象徴的に表れていると考えます。
 私の第二の故郷、米沢の上杉鷹山公が家督を譲る際、後継
 者に授けた言葉「伝国の辞」です。

 「伝国の辞」
 一、国家は先祖より子孫へ伝へ候国家にして我私すべき物
   にはこれ無く候
 一、人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこ
   れ無く候
 一、国家人民の為に立たる君にして君の為に立たる国家人
   民にはこれ無く候

 この言葉から読みとれるのは、高い理想主義の精神です。
 君主と武士、人民との間に、直接的な主従の関係ではなく、
 共通の理想を仰ぎ、共にそれぞれの立場、役割意識で理想
 実現に取り組む関係性が存在した点に、深い示唆と感動を
 覚えます。


 上杉鷹山公については、同じくほぼ同時期に著された内村
 鑑三氏の「代表的日本人」においても紹介があります。

 米国第三十五代ケネディ大統領は、これらの書に目を通し
 ていたとされ、記者会見において「最も尊敬する日本人は」
 と聞かれた際に、上杉鷹山と答えたと言われます。

 大統領就任演説における有名な一節、
 「国が何をなしてくれるかを問うのではなく、
  国のために何をなし得るかを問うて欲しい。」
 という言葉には、個人の自由や権利とは別の視点から、国
 のトップリーダーと国民とが共に共通の目標に向かう姿勢、
 相互の義務という面で、武士道精神の粋との共通性が見い
 出せます。
 単なる民主主義ではなく、リーダーの役割、高い精神性を
 重視し、国民にも参加義務を求める形で君主政治との高い
 次元での融合、昇華のエスプリが窺えるところです。

               ◇

 日本において、君主と武士、人民が仰いだ共通の理想は、
 様々な外来文化の吸収により枝葉を広げながらも、脈々と
 して根を長く伸ばし、日本古来からなる英知の年輪を積み
 重ねてきた太く真っ直ぐな樹幹そのものであり、非常に純
 粋で故に普遍の価値を持つ「天道」、天の道理であったと
 考えます。

 日本は無宗教の国ともいいますが、個々人における各々の
 信仰はともかく、国、社会としては、特定宗派にとらわれ
 ることなく、その存在を認めた上で八百万の神として尊重
 しつつ、それらの高位に天道を位置づけ仰いできたものと
 考えます。

 上杉鷹山公の政治により、約二百年前、米沢、置賜地域は
 まさに天の国ともいえる理想社会を実現します。
 その象徴的なエピソードとして、実際に米沢を訪ねた学者
 が残した「棒杭の商いの話」があります。
 “人里離れた道の傍らに、わらじや果物などを棒杭にぶら
  下げた、管理人のいない市場がある。
  人々はそこに記されている通りのお金を置いて品ものを
  持ち帰る。
  こういった市場で、盗みが起こるとは誰も思っていない
  のである。
  この様な商いが、現実として行われている。”
 この様な話です。
 こうして米沢は、「至治の国」、治世ここに至れりとまで
 言われる様になったとのことです。

 この様に、天道に基づいた高度な理想主義、日本の文化、
 和の伝統的な価値観には、凛とした気概、繊細な感受性、
 慈しみやさしさなど素晴らしい宝、普遍の真理が詰まって
 います。
 今あらためて温故知新、この豊かな精神基盤を復興再構築
 することこそが大事であり、新たな時代を切り開いていく
 基礎となる課題であると考えます。


 私は、今後国内のみならず外国訪問の際も含めて、折々の
 場面できものを装い、きものスタイルを通じて、和の心や
 日本の伝統的な価値観、新たな時代に目指す理念の背景を
 伝えると共に、関心を持ってもらい理解を深めて行きたい
 と考えています。

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 2 その他
 
 きものと国の価値観、PR/情報/ネットコミュニケーション。
 一見脈絡が無い様に見えるかも知れませんが、それぞれ私にとって
 は関心事で、取り組んできた分野です。

 昨年末の一つの募集が縁となり、年初から小沢一郎政治塾の1期生
 として、今度は政治の分野に取り組み始めました。

 政治という視点を通すことにより、先のきもの、国/社会のあり方、
 心の問題、情報/コミュニケーションというものが、相互の関連性
 をもった一つのストーリーとして、あらためて自分自身の中で整理
 されました。

 きものを、単なる打ち合わせ型のデザイン要素で捉えるのではなく、
 そのスタイルを通じて心の部分を感じ、奥深い魅力を味わって行き
 たいものだと考えています。


 上記1の文も、塾への取り組みを通じて過去の蓄積を整理、再構築
 する中でまとめたものです。
 この様にして自分自身の考えをまとめた個人ホームページを、この
 4月から公開いたしました。

 「長根英樹ホームページ」 http:// nagane.kimono.gr.jp/

 様々な立場、視点から、みなさんの考えや活動、経験、想いなどを
 お寄せいただければ幸いに存じます。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。

                   きもの村 村長 長根 英樹

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[45] 長根英樹 メールマガジン - No.0017 -2001.02.08 号
 1 衿元の美意識 〜 覚悟の解放
 2 袴の仕立てにご注意を
返事を書く
    2001.02.08 00:33

 ◆◇ 御召 ◆ 紬 ◇ 着尺 ◆ 羽織 ◇ 袴 ◆ 帯 ◇◆
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        2001.02.08 No.0017  配信数:0350  
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≪≪目次≫≫

 1 衿元の美意識 〜 覚悟の解放
 2 袴の仕立てにご注意を
 3 その他

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 1 衿元の美意識 〜 覚悟の解放

 前号にて、
 “きものを通じて温故知新。きもの心、和の心という精神面の魅力、
  奥深さを共に探っていく中で、新たな時代の希望や価値観を見出
  して行きたい”
 との形で、新年新世紀のご挨拶を申し上げましたところ、熱い想い
 の共感メールを頂戴いたしました。

 単なる表面的な“きもの振興”ではなしに、精神面からの“きもの
 ルネッサンス”、すなわち日本の国として、また一人ひとりの心の
 あり様の面で「凛とした気概、繊細な感受性、慈しみやさしさなど
 和の伝統的な精神基盤」を復興再構築することこそが大事であり、
 これが真に豊かにきものを楽しむことにも繋がる。
 この様にあらためて実感すると共に、意を強くしたところです。

 今後、きものに宿る心の面の魅力という意味でいくつかの観点から
 考えをご紹介していきたいと思います。
 みなさんにも、様々な視点からの捉え方をお寄せいただければ幸い
 に存じます。

               ◇

 今号は、きものの衿元に見る美意識について。

 装いの和洋を問わず、衿元は各スタイルにおける一つの要点となり、
 基本的な価値観や美意識が表れる部分になると思います。

 スーツスタイルにおいても、シャツの襟(襟腰の高さ・襟の大きさ・
 衿先角度・襟開角度・襟パターン等)、タイ(幅・結び方・結び目
 大きさ等)、ジャケット衿(合わせ位置・襟開角度・襟パターン等)
 をトータルバランスで見た「Vゾーン」ということで、色柄素材感
 も含めてお洒落のポイントになっています。

 もっと遡れば、中世貴族の襟ファッションが究極の形に行き着いた
 例として、「ラフカラー」=円形(ドーナツ状)の白い襞襟(ひだ
 えり)による装飾を見ることも出来ます。
http:// www.suntory.co.jp/ sma/ japanese/ collections/ l_2-2.html

 この他、イギリスジェントルマンは週末のノータイスタイルにおい
 てもアスコットスカーフを巻いたり、タートルネックを着たりして
 首を露わにしないこだわりを持つともいいます。

 クラバット、タイ、スカーフ、カラーと様々な呼び方、形状があり
 ますが、西洋、殊にイギリススタイルの衿元装飾は一貫して“隠す、
 飾る”という特徴が見られると思います。


 これに対してきものの場合は、一貫して首を露わにしたV字衿スタ
 イルが基調になっています。
 気候的な要素もあろうかとは思いますが、真冬においても同様です
 ので、別の要素を考慮する必要があると思います。

 衿元、首が身体防御において非常に重要な意味を持ち、精神的な面
 でもある種の支柱となるのは、和洋を問わない人類共通の真理で、
 それ故、西洋では“隠す、飾る”という形で防御、士気昂揚の潜在
 ニーズが衿元スタイルとして顕れて来たのだと思います。
 一方、日本においては何故、あえて一見無防備にも衿元、首を露わ
 にしたスタイルが確立し得たのか。

 「襟を正す」「首を洗って(来た/待つ)」等という言葉から推し
 量るに、日本の場合は、己の来し方生き様に筋を通し自信を持ち、
 憚るところ無しの気概を持つことで、「いつ何時であっても堂々と
 首を差し出せる」という覚悟により防御、支えを図るという価値観
 から、V字に解放する衿元スタイルが生まれ確立したものと考える
 ところです。

 片や隠して守り、一方では露わにして逆に問う。
 抽象的になりますが、「覇道」と「王道」のスタイルの違いも見い
 出すことが出来、新たな時代に目指すべき価値観もほの見えて来る
 気がするところです。

               ◇

 スーツスタイルの場合は、己の精神状態に関わらずネクタイを締め
 ることによって着こなす(形を取り繕う)ことが出来る面を持つが、
 きもの、和装スタイルの場合は、衣装だけではスタイルが完結せず、
 装う人の精神(覚悟)が揃って初めて着こなすことが出来るもので
 ある、この様に捉えることも出来るかと思います。

 実際にオンビジネス、フォーマル場面において、洋装ノーネクタイ
 で人と会うことを想像すれば、いかに頼りなく、堂々と相対峙出来
 ないかが実感できるかと思いますが、いざきもので装うことを考え
 る時、紋付き羽織袴スタイルで整えるならば、例え外国要人が相手
 であっても堂々と対峙できるという“凛気”を覚えるのではないで
 しょうか。

 オフの寛ぎ(くつろぎ)の場面、着流しスタイルできものを楽しむ
 他に、折々の場面でフォーマルの紋付きや袴を身に着けることで、
 気概と共に纏うというきものの別側面の魅力も実感いただきたく、
 ご提案をいたします。


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 2 袴の仕立てにご注意を
 
 同じ“きものの仕立て”と言っても、長着、羽織の仕立てと違って
 袴の仕立ては高度で専門性が求められる分野となります。
 仕立てをなさる方、詳しい方ほどその違いに敏感で、ある種のこだ
 わり、線引きを持っていることと思います。
http:// www.nhk.or.jp/ otona/ s3/ 1999/ 990113.html

 実際に、製品紹介コーナー「想い入れ紹介」にてもご紹介しており
 ます仙台の呉服屋「布袋屋總本店」さんでは、長着/羽織、コート
 類、帯、袴をそれぞれ別の仕立所に依頼しているとのことです。

 現在、男のきもの、特に袴については需要が少なく、仕立て頻度が
 高くないために、また一括発注で管理の手間を省く意味もあってか、
 専門の仕立所に直接発注をせず、日常的に付き合いのある仕立所に
 発注したり仲介を依頼するケースが多い様に見受けます。

 もちろんケースバイケースで、それぞれの専門職人がいるレベルの
 高い総合仕立会社もありますし、プロとしてのシッカリとした仲介
 をする場合もありますので一概には言えませんが、仕上がりの面で
 トラブルがあるのは、往々にしてこの様なケースが多いものと思い
 ます。


 洋服、スーツ等のオーダーをイメージすると分かりやすいかと思い
 ますが、生地の選択はあくまで第一歩であって、その後のステップ、
 仕立て段階での採寸やディティール確認、着用イメージ/コーディ
 ネイト確認(顧客固有のスタイル=流儀の確認)こそが重要となり
 ます。

 しかしながら、呉服店の場合。ともすると反物が決まった段階で
 “一丁上がり”とばかりに、周りを取り囲んでいたスタッフが急に
 いなくなって、若い担当がたどたどしく仕立て手配を始めるという
 状況も見受けられます。
 お店によっては、仕立て専門の和裁士資格を持ったスタッフが担当
 する場合もありますが、顧客のスタイル、コーディネイトに提案の
 責任を感じるのならば、反物を勧めたスタッフも仕立てステップに
 同席すべきで、場を離れる理由にはなりません。

 この様な視点で見ていくと、仕立てステップを蔑ろにする呉服店で
 仕立てトラブルが多いのは当然とも言えます。

               ◇

 きものの仕立ての場合、「洋服と違ってシングル/ダブル、ボタン
 の数の違いがある訳ではなく、型が決まってあるから簡単。細かい
 採寸も必要ない」という説明で、単に身長、体重、ウェストの寸法
 のみで仕立てに出されるケースもありますが、実際に様々なきもの
 を着用する立場からはキチッとした採寸、寸法データの自己管理を
 お勧めいたします。

 男のきものは女性と違ってお端折がなく、縦方向の寸法調整が出来
 ませんから、寸法の違いが直ぐさま着丈に表れ、くるぶしが隠れる
 隠れないといった微妙な点は簡単に上下します。
 また同じく、通常は帯で隠れるはずの内揚げ線の位置も容易に上下
 しますので、帯の上部から大きく横の縫い線がのぞくという事例も
 よく見かけます。

 この他でも細かい部分における仕立てのこだわりは美意識とも連動
 し、よく着る人であれば各人各様で、決して一律のものではあり得
 ません。
 美意識以前に、同じ身長170cmの人でも、顔が大きい人小さい
 人では肩位置が違ってきますので、同じ寸法で仕立てて裾の位置が
 揃う道理がありません。

               ◇

 率直なところ、日本全国でも、スーツのオーダーサロンの様な形で
 顧客のスタイルを尊重し、そのスタイルを自己表現するサポートを
 トータルで行える男のきものの専門ショップは非常に数が少なく、
 全体レベルも低いとの現状を認識せざるを得ないと思います。

 これは必ずしも供給側(メーカー、流通等)のみの問題ではなく、
 購入し装うユーザー側との相互的な問題であると思います。
 優れたお店、メーカーは、優れた顧客との常なる対話の中からこそ
 生まれ育っていくものと思います。

 きものスタイルのポテンシャリティは、21世紀の現代においても
 なお世界的に高いものがあります。
 背広の語源になったとも言われるロンドンの紳士服街サビルロウで、
 まさに相互対話によるオーダーメイド=bespoke によりジェントル
 マン達が自国の服飾文化、精神を高めてきた様に、日本においても
 今の時代に生きるわれわれが、あらためてきものを通じて服飾文化、
 精神を高めていく様な供給側とユーザー側の関係性を構築し、大人
 の男のきものサロンを育て上げていきたいものだと考えています。


 米沢は袴の主要生産地で、地元織物組合の統計では全国生産の9割
 を占めるとも言われます。袴地(反物)だけでなく、袴の仕立て所
 の軒数も多く、様々な仕立て所があります。

 きもの村、私は、袴専門の仕立て所との連携により、野袴における
 デザイン(裁断図、ディティール、各所寸法の指定)を含めたトー
 タル・プロデュースをしております。
 仕立て上がりの現物をご確認いただき、納得の上でご発注いただく
 形での対応もいたしますので、じっくり確かなステップでお作りに
 なりたい場合には、ぜひスケジュールを確認の上米沢にお立ち寄り
 いただきたくご案内いたします。

 また、袴の仕立てトラブルでお悩みのユーザー、流通、メーカーの
 方で、情報交換をご希望の場合にはメールにて様子をご案内下さい。
 私は法律の専門家ではありませんので、そういった面でのアドバイ
 スは出来ませんが、いくつかの事例が集まると共通の注意ポイント
 やリスティングが可能になるかも知れません。
 当初、一定の情報蓄積が進むまでは効果的なサポートは難しいかと
 思いますが、ご一緒によい方向を探っていきたいと考えております。

               ◇

 「きもの村」ホームページ 男のきもの・織のきもの
  ・想い入れ紹介
    http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ lineup/

  ・布袋屋總本店
    http:// www1.sphere.ne.jp/ hoteiya/
 

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 3 その他
 
 前号のメールマガジンをご覧いただいた読者の方から、当ページの
 談話室「大人の男のきもの談義」に共感メッセージをご投稿いただ
 きました。
 ハンドル名「サンセット」さんの「袴姿に思うこと」とのメッセー
 ジで、非常に興味深い“俳人日野草城の袴のエピソード”をご紹介
 いただきました。
 現代に忘れかけている気概と装いの関連について、あらためて思い
 起こさせてくれるお話です。ぜひご覧いただきたく。
http:// www.kimono.gr.jp/ mens/ salon/ 43_index_msg.html

 このコーナーは、メールマガジンのバックナンバーをご紹介すると
 共に、自分のスタイル(流儀)を持つ大人の男のきものをテーマに、
 その魅力、装いの楽しみ、きもの心等について語り合う落ち着いた
 雰囲気のサロン(談話室)としてご提案をしている場です。

 みなさんにも読後の感想や新たな視点の提示など、ご意見をお寄せ
 いただければ幸いに存じます。

               ◇

 本メールマガジンのタイトルですが、このところの本文内容を表現
 するには十分でなく、当初段階とのズレを感じているところです。

 個々の製品価格情報も、全体としての価格信頼性を向上させていく
 意味から重要と思っていますが、現在きもの業界は大きな転換期に
 あり、メーカーの価格政策自体が大きく揺らぐ状況にあって、なか
 なか安心価格のご紹介を増やしていけない状況にあります。
 安値ラインの目安になればとご紹介する価格が、かえって高いもの
 になってはいけないとの考えからです。

 当面は、タイトルの“着こなし紹介”=きもの心、和のスタイル、
 価値観の面を中心にご案内していく予定でいます。

 ホームページでの製品・価格紹介についても、今後一部製品の価格
 修正や紹介の暫時見合わせ等を行う場合もあるかも知れません。
 状況が落ち着き、価格政策が確立されてきたらあらためてご紹介を
 再スタートしていきたいと考えております。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。


 みなさんからご意見、ご感想をいただければ幸いに存じます。 


                   きもの村 村長 長根 英樹

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  メールマガジン 【男のきもの】製品・価格・着こなし紹介

  発行責任者 きもの村 村長 長根 英樹 HIDEKI NAGANE   

          webmaster@kimono.gr.jp       
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  バックナンバー http:// www.kimono.gr.jp/ home/ salon.html

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[44] 長根英樹 Re: きもの心、和の心を見つめ直すことできものの復権を 返事を書く
    2001.01.29 22:46

 サンセットさん。メッセージありがとうございます。
 共感のお言葉を拝見し感激いたしました。

 きものには様々な面の魅力があり、男のきものについても
 随分と各方面の紹介が増えてきたと思いますが、私は単に形や
 表面的なコーディネイトだけでなく、その心の部分について
 魅力、奥深さの一端をご紹介して、共に探っていきたいと
 考えています。

 その意味で、まさに袴姿の「凛」、覚悟の装いとの面の
 お話を伺い、あらためて意を強くし大変うれしく思った
 ところです。

 この様な話は、なかなか現在ではまとまった形で見ることが
 できませんので、今回の様にご紹介いただき、想いを同じくする
 仲間で蓄積していければ、後々貴重な共有財産になるものと
 思います。
 (同じ様な袴スタイルの持つ意味合いについての話、湯島講堂の
  エピソードをNo.2「オン・ビジネスの装いとしての袴スタイル」
  にてご紹介しているところです。)

 今回サンセットさんがご紹介のエピソードをご覧になって、
 あらためて袴に興味、あこがれを抱き、きもの、袴の世界に
 足を踏み入れる方も出てくることと思います。

              ◇

 初釜の装い、鈴源の御召揃いに縞平袴(仕舞平)とは
 さぞ気品あふれ周囲注目の装いだったことと思います。
 お好みもあるかと思いますが、米沢鈴源のものは、まさに東武士の
 質実な凛とした佇まいが魅力の織物だと思います。

 茶道も武家流儀ではやはり心持ち、スタイル(流儀)が違って
 来るものなのでしょうね。
 この分野、嗜みがございませんで、より深いお話を聞けずに
 恐縮です。


 きもの振興、きもの愛好家の底辺拡大、きもの着用機会の拡大…
 と、きものに視点が集約しがちですが、すこし離れて俯瞰的に見れば、
 きものの魅力を再発見するということは、それ以前にきもの心、
 和の心、日本の伝統的な価値観そのものの魅力、奥深さを認識
 することこそが前提となり、目指すべきはこちらの方なのだと
 実感しているところです。

 まさにサンセットさんがおっしゃる様に、
 “きもの心、和の心を見つめ直す中から日本人の気概の復権を図り、
  あらためてきものの魅力が見直されていく”
 その様な流れを作っていきたいものだと考えております。

 今後ともよろしくお願い申し上げます。

 

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  :1999年10月 1日   更 :2002年10月 1日
                          


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